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文学散歩 太宰治『津軽』: 斜陽館、津軽、青森

私は紀行文や旅行記が好きで、お気に入りの中には、村上春樹や沢木耕太郎の本など色々あるが、今回紹介するのは太宰治『津軽』(1944年発行)。太宰が故郷の青森奥津軽を3週間に渡り旅をする内容で、津軽の人々との交流を通して描かれる様子は、自伝的な小説のようでもあり、とてもいい内容だ。

私は青森へ旅してから『津軽』を読んだクチだ。彼の生家を訪ねたり、津軽の文化を体験して興味を持ったのだ。もちろん、太宰の代表的な小説はすでに読んでいたが、『津軽』はまだ未読であった。彼の代表作『斜陽』や『人間失格』などは、なかなか重い内容だが、『津軽』は、太宰が子守をしてくれた女性を訪ねたり、懐かしい人々に会う内容であったり、どこかほっこりする内容だ。

太宰治の故郷金木町への旅程

太宰は、出版社からの依頼で故郷津軽へ旅する。彼は東京を発ち一路青森を目指す。当時は長旅であったであろう。現在では東北新幹線で東京から青森は日帰りが出来る。私も数年前に新幹線で新青森駅まで行ったが、4時間弱で着いたと記憶する。
太宰はその後、蟹田や竜飛などを経て故郷金木町に着く。

斜陽館

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斜陽館外観(写真上)青森ヒバを使用した明治の建築だ。

太宰が生まれた生家が、旧金木町(現在は五所川原市)にある斜陽館。ここは明治40年(1907年)に、太宰治の父である津島源右衛門が建築した豪邸で、現在は国の重要文化財になっている。建物は公開されており、内装もじっくり見ることができる。

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明治の建築らしく和洋折衷だ(写真上)

青森ヒバをふんだんに使った建物は、贅沢で、今でも存在感がある。また、当時としては流行りであったであろう和洋折衷建築であるため、内部も和風と洋風が見られる作りだ。

ところで、青森ヒバといえば、新青森駅の新幹線ホームに降り立った時、木のいい香りが漂ってきたのを覚えている。東北に行くとヒバやスギなどの木造建築に入ることがあるが、木の香りが素晴らしく、とても癒される。東北へ旅をする時は、そういった木造建築の香りを楽しみたい。

もちろん斜陽館は古い建物なので、木の新鮮な香りはしない。ここは明治の雰囲気を感じることが楽しみであろう。
また、明治の建築らしく、使用しているガラスなども古く懐かしい感じがとてもいい。

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内部の照明も当時の雰囲気を醸し出す(写真上)

光の力

色々な街や建物を見てまわっている時、そこにある照明や光にハッとすることがよくある。常々思うことではあるが、光には何か特別な力があるようで、場の雰囲気をより情緒豊かなものへと格上げする効果があるようだ。

斜陽館の中にある照明が気に入り写真を何枚か撮った。当時の照明器具から発する光が、見ている我々を明治の世界に引き連れて行ってくれるみたいだ。

『津軽』を読んでから斜陽館を訪ねると、より当時の雰囲気を感じることが出来るかもしれない。
青森ヒバで建てられた和洋折衷の豪邸に明治の照明器具から出る光、それに太宰治の文章。なかなかいい。

Photo and Writing by HASEGAWA, Koichi

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