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【音楽と脳科学03】ノイズを聴くと作業に集中できる⁈

今日のテーマはノイズ。これに関して学んでみたいと思います。

音楽と気分

誰しも音楽を聴く理由は色々あると思うのですが、落ち着きたい時、リラックスしたい時、集中したい時、そんな時に音楽を聴くという方は結構多いと思います。僕もよく音楽を聴いて地味な作業などをやっています(実験にありがちな、ただただ単純作業を…)。

僕は個人的には、意外とクラシックよりもChillwaveとかLo-fiというようなシンセサイザーを使ったような音楽がBGMとして集中できるなと感じています。
クラシックはすごく好きなのですが、ちょっとドラマチックすぎるように感じたり、人が演奏していると揺らぎがあって、それはしっかり聴く分には音楽としての醍醐味なんですけど、耳がそっちに向いちゃうんですよね。
特にボーカルが入った歌などは僕は勉強や作業の時には避けるようにしています。どうしても聴き入っちゃいますよね。

それで、何かいい音楽ないかなと思ってYoutubeとか見漁っていると、集中用ノイズとかストレス軽減ノイズ、というものがありました。1時間というものがあったり、長尺版の12時間というのもありましたね。
よくノイズは胎児の頃に聞いていた音に近いからリラックスできるとか、赤ちゃんが寝付きやすい、とか言われてますよね。そういう音を出す装置も売られてますし、ビニールをくしゃくしゃする音を聞かせる、なんてやり方もあると聞いたことがあります。

では音階があるわけでもなく、リズムがあるわけでもない、”ノイズ”を聞いたときに人間の脳はどんなふうに反応しているのでしょうか?

ノイズの種類

まずノイズというのはwikipedia先生によると、「処理対象となる情報以外の不要な情報のことである。」つまりは一般的に雑音と言われるもので間違いないですね。不要な音のことを言うんですね。

ノイズってなぜか色の名前がついていますよね。ホワイトノイズ、ピンクノイズ、ブラウンノイズ… それぞれどういうものか簡単に説明しますね。

ホワイトノイズ:周波数の広い範囲で同程度の強度の信号が出ている雑音。
音にはいろんな周波数があって、それで音色が決まってきますよね。いろんな周波数の音が束になって、それらが同じくらいの音量で鳴っていると特徴的なサーとかシャーっていう音に聞こえます。TVの砂嵐的な(今の子供達にはなんて説明すればいいかよくわからないけど)。

ピンクノイズ:周波数に反比例する強度を持つ雑音。
高い周波数の音になるに従って音量が小さいようなノイズですね。ホワイトノイズがちょっと耳障りなこともある一方で、ちょっと落ち着いた印象がある音です。

ブラウンノイズ:ホワイトノイズの積分することによって生成される雑音。
ピンクノイズよりもうちょっと高音が削られたような音ですね。科学好きにはたまらない、ブラウン運動のロバート・ブラウンからもじって名付けられたそうです(水に浮かべた花粉が小刻みに震えている!ってやつ)。ホワイトノイズの積分がブラウン運動のシミュレーションに相当するかららしいです。※詳しい解説を誰かにお願いしたい…

ブルーノイズ・パープルノイズ:ピンクノイズと逆に、周波数が高くなるにつれて強度が上がっていく雑音。

ノイズを聴くと集中できる?

「ノイズを聞いたら集中できる」ということで、試しにノイズの動画を流しながら作業をしてみました。そしたら、確かに、なんとなく集中できた気がします!(謎

ノイズの音にはどんな成分が含まれているか見てみると、いろんな周波数の音が重なり合っていることがわかります。

人間の耳という器官は非常に精巧にできていて、カタツムリのような渦巻きの解剖図に見覚えのある方も多いと思います。これをそのままカタツムリの意味の”蝸牛(1)”と名付けられています。これを真っ直ぐ伸ばすと、徐々に幅の狭まる一本の管になっています。音とは空気の振動ですから、その振動がこの管に伝わって音として認識されるんですよね。その管自体が幅が狭まっていって違うということは、場所によって振動も違うということになります。つまり、一本であらゆる周波数の空気の振動に対応したセンサーな訳です。

色々な音の成分を認識できるというこの構造は非常に重要です。例えばオーケストラの音楽を聴いていていろんな楽器の音が一緒になっているにも関わらず別々の楽器を認識できるのは、この周波数をそれぞれ聞き分けられる蝸牛の構造のおかげなんですね。これは自然界では例えば森の木や風の音の中から天敵の足音を聞き分けたりするのに役立ちますよね。
脳はいつも身の回りの音を処理し続けていて、聞きたい音と聞きたくない雑音とを区別しています。

では、あらゆる周波数の音が含まれているホワイトノイズを聞いたらどうなるでしょう?
つまり蝸牛の全体がいろいろな周波数で刺激されることになります。そうすると、脳はどの音に集中すればいいのかわからなくなり、全部ノイズということにしとこう、みたいな反応になります。

この現象は色に例えるとわかりやすいと思います。光の三原色は聞いたことがあると思います。赤緑青を混ぜればいろんな色が作れますね。一色だけならビビッドなはっきりした色に見えますね。でも3つ全部混ぜたら白色になります。いろんな波長の光が全部入りのように混ざるとまっさらという意味の白色になりますね。
つまりノイズの中でもあらゆる周波数を含むから”ホワイト”ノイズというわけです。ホワイトとはつまり特色のない状態、脳が耳を通じてどこに集中したらいいかわからない状態になります。
これによって些細な音がいろいろな周波数の音に埋もれて気にならなくなるので、結果として作業に集中ができるようになる、という仕組みといえます。

静かな部屋で蛇口から水滴が落ちたり、時計の秒針の音がやたら大きく聞こえる時がありませんか。これは特徴的な音という刺激に対して脳が敏感に反応する特性によるものです。

静かな部屋で水が垂れていたらすごく気になると思いますが、冷蔵庫が唸っていて、エアコンがついていて、外では少年が野球をしていてご飯が炊けたメロディがなる、そんな環境では、同じ水の音が鳴っているにも関わらず、それを環境に埋もれた音として人間の脳は自動的に無視することにしてしまいます。結果として蛇口がきちんと閉まっていないことに気づくのが遅れるわけです。
これを逆手に取ることで、ホワイトノイズを聴くことで些細なノイズに気を紛らわされないようにしよう、というのがノイズによる集中法のメカニズムと言えます。

ノイズを聴くとリラックスできる?

ピンクノイズがリラクゼーションに良いという話があります。これはピンクノイズの定義として周波数に強度が反比例すると説明しましたが、これはつまり1/fゆらぎとよくリラクゼーション界隈で話題になるものです。この1/fゆらぎは自然界にも存在していて、例えば川のせせらぎだったり雨の音や炎の音などが近いと言われていて、自然の中で体がリラックスするのと同じメカニズムだという説もありました。
ただこれに関しては確実性のあることは言えない気がしていて、なぜならリラックスした状態になるには複合的な要素によるからです。例えば自然を満喫するために山に行ったとして、気温や湿度の違い、人口密集のストレスから解放された安心感、樹木が出す成分、などなど色々ありますよね。自然の中でリラックスできるということは多くの人が実感を持っていることも多いわけなんですけど、それら色々な要素が総合された結果だとは思うんですよね。
ただしもしかしたら何か似た音を聴くという行為が脳を騙す形でリラックスにつながるのかもしれませんね。
そもそも本来安心してリラックスするなら”おうち”が1番だと思うんですけどね。動物に襲われる心配もないわけですし。

そして、音を聴いてリラックスすることについてノイズでも音楽でもなのですが、ヨガをしたりマッサージしたり瞑想したりするリラックス法と一つ明らかに違う点があると思うんですよね。それは、無意識に作用するという点です。呼吸法を工夫したり体を動かしたりという”動作”を伴うリラクゼーションに対して、音が流れているという状況は、自然に生活に取り入れられるという点で違いがあると思います。

ノイズを聴くと記憶力が上がる?

2017年に面白い論文が出ていました(2)。夜睡眠をとっている間に記憶の定着だったり脳のメンテナンスが行われている、というのは昨今の報告から確からしそうだとわかっているんですけど、寝てる間にピンクノイズを聴かせて見たらどうだろうか?というのをこの論文では試しています。

まず寝る前と起きた後に記憶に関するテストを行うんですけど、寝ている間にずっとピンクノイズを聴かせるグループと、寝落ちしたら音をこっそり止めるっていうことをしたグループで比較しました。これは上手いこと考えられてますよね。寝るまで聴いてた音が入眠とかに影響するかもしれないですからね。あくまで寝ている間に聴いた音がどう影響するか調べたんです。すると、睡眠をとるとどちらのグループもし奥が定着している傾向は同じだったのですが、ピンクノイズを聴かせたグループの人の方が定着のスコアが3倍高かったという驚異的な結果でした。

もっと詳しく説明すると、徐波睡眠(じょはすいみん)=NREM睡眠というより深い睡眠の時に記憶の整理が行われているらしいということがわかっているんですけど、脳波を測定しながらその徐波睡眠のタイミングで音をシンクロして聴かせるということをしています。それによって脳波を測定すると、ピンクノイズを聴かせているタイミングでより深い睡眠である兆候を示していました。

つまり、寝ている間にある種のノイズによる音刺激が入ることで、なぜか記憶の定着が促進される、ということが明らかになったわけです。
もう少し解明が進んで、夜セットするだけで記憶力があがるCDとか、逆にトラウマとかの記憶を定着させにくくするとか、そういった研究が進めばいいですね。

ホワイトノイズ、ピンクノイズ、ブラウンノイズ、好みはありますか?これが自分にはいい感じ!というのがありましたらぜひコメントの方で教えてください。
自分が心地よいと思えたり、なぜか集中できるなと感じるようなものを見つけるという過程ももなかなか楽しいなと僕は思います。

よもやま話

ここまで読んでくださってありがとうございます!

今回調べていて興味深いと思ったのは、意外とノイズとリラクゼーションに関しては研究論文が少ないな、ということです。ノイズと集中とか作業パフォーマンスに与える影響に関してはものすごくたくさん論文が出ていたのですが、リラックスという少し抽象的な状態は数値化が難しいからなのか、論文が少ない傾向だったのでちょっと興味深いですね。
でも音楽聴いたら気分に影響しますよね。ノイズはわからないけど。ソワソワしていた気持ちがホッとすることもあるような気がするんですが、どうなんでしょうね。

最後に手前味噌なのですが、実はYoutubeチャンネルを運営しています。その中で、瞑想とか作業に集中したい時に聞けるBGM専門のYoutubeチャンネル「NeuroChill」を始めました。
↓気になった方は是非聴いていただいて、気に入っていただけた方はチャンネル登録していただけると嬉しいです!

参考資料

1) 蝸牛, 脳科学辞典
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%9D%B8%E7%89%9B

2) Papalambros NA, Santostasi G, Malkani RG, Braun R, Weintraub S, Paller KA and Zee PC (2017) Acoustic Enhancement of Sleep Slow Oscillations and Concomitant Memory Improvement in Older Adults. Front. Hum. Neurosci. 11:109. doi: 10.3389/fnhum.2017.00109, https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnhum.2017.00109/full

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