見出し画像

退去強制手続に入ってから難民申請するのはむしろ当たり前のこと

「退去強制手続に入ってから難民申請するケースも多く」?


こちらの動画でも紹介されている「退去強制手続に入ってから難民申請するケースも多く」という、難民審査参与員の発言、出入国在留管理庁2023年2月公表の「現行入管法の課題」でも紹介されていますが、むしろ、これは当たり前のことです。

本国における迫害を逃れて庇護を求める方々の目的は、安全な生活をすることです。難民認定されるのは、その手段のひとつに過ぎません。難民認定申請をしなくても、安全な生活が送れているのであれば、わざわざ面倒な手続を取る必要はないのです。

申請者の心を折る申請書

出入国在留管理庁のWebサイトから、難民申請書が入手できますから、是非、ダウンロードして書いてみて下さい。
昨年、大学の講義で学生さん達に書いてもらったら、本国にいる兄弟の居住地、電話番号とか、自身の居住歴、職歴などなんでこんな細かいことまで全部書かなくてはならないのかと、100%不評でした。私も難民だったら2頁目で心が折れてしまうと思います。今の預金口座とか残高を書く欄もありました。
しかも、文字で書かなくてはならない。アフガンの識字率は25%です。読めもしない文字だらけの紙に全部書けと言われたら、呆然として諦めてしまうのではないでしょうか。

東京地方裁判所2002(平成14)年1月17日判決

2004年の法改正前には、難民申請はやむを得ない事情がない限り上陸から60日以内に行わないとそれだけで不認定になるという、悪名高き60日ルールというものがありました。

この解釈が争われた裁判で、東京地方裁判所は以下のような理由を示し、「やむを得ない事情」を広く認めるべきと判断しました。

被告は、難民は本邦に入国後直ちに難民認定申請をして保護を求めるのが通常であり、難民でありながら長期間難民申請をしないことは想定し難いとの前提に立っているが、難民の立場になって考えると、自らが難民であると表明することは、故国との絶縁という重大な結果をもたらすばかりか、それ自体に危険を伴う行為であるから、我が国が信頼するに足りるか否かに不安を抱く場合もあろうし、そうでなくても、我が国に平穏に在留できているならば差し当たり迫害を受ける危険から逃れられているのであるから、そのような状態が続く限りは難民であることを秘匿し、そのような状態が維持できなくなって初めて、いわば最後の手段として難民であることを理由に保護を求めるというのも無理からぬものと考えられる。

冒頭に引用した発言をされたのは、難民援助のNGO名誉会長を務められている方ですが、上記の東京地方裁判所裁判官と、どちらが難民申請者の心情を理解しているといえるでしょうか。

ウクライナの申請者はたった3人


これを裏づけるのが、ウクライナ避難民の方です。
2022年中のウクライナ避難民入国者数は、出入国在留管理庁公表のこちらの資料によれば2238人です。

他方、こちらの報道によると、ウクライナ避難民の方で難民申請者は3人です。

2023年4月21日の衆議院法務委員会で、橋本直子参考人は、ウクライナ避難民は条約難民以上の厚遇を受けていると述べていました。

そう、難民申請は、安全な生活を送るための手段のひとつに過ぎないのです。だから、その必要がない方は申請しない、いざ退去しなくてはならないと切羽詰まって初めて申請するのは、むしろ当然のことなのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?