名古屋入管 スリランカ人女性死亡事件について想うこと
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名古屋入管 スリランカ人女性死亡事件について想うこと

koichi_kodama

既に各所で報道されているとおり、2021年3月6日に名古屋入管収容場でスリランカ人女性が死亡しました。入管収容施設内で繰り返される死亡事件につき、本当に心が痛みます。

私はこれまで入管内や退去強制過程での死亡事件のうち、4件につき訴訟や証拠保全で代理人を務めました。他に証拠保全に至らずに相談を受けた方も何件かあります。その経験から、思うところを3点ほど書いてみます。

生命・健康に対する全責任は入管にある

まず、大原則として、入管収容されている人の生命や健康に対する全責任は、拘束している入管側が負うべきという点を挙げておきます。

収容されている方の処遇に関する被収容者処遇規則30条は以下のとおり定めています。

(傷病者の措置)
第三十条 所長等は、被収容者がり病し、又は負傷したときは、医師の診療を受けさせ、病状により適当な措置を講じなければならない。

また、2021年2月19日に閣議決定された入管法案では、55条の4で処遇の原則について「人権を尊重しつつ適正に行わなければならない」とし、55条の37では社会一般の水準に照らして適切な医療上の措置を講ずることを要求しています。

(処遇の原則)

55条の4 被収容者(入国者収容所等に収容されている者をいう。以下この章及び第72条の2において同じ。)の処遇は、被収容者の人権を尊重しつつ適正に行わなければならない。

(保険衛生及び医療の原則)

55条の37 入国者収容所等においては、被収容者の心身の状況を把握することに努め、被収容者の健康及び入国者収容所等内の衛生を保持するために、社会一般の保険衛生及び医療の水準に照らし適切な保険衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする。

入管の収容施設に収容される方々は、オーバーステイなど何らかの退去強制事由に該当する疑いがある人です。そういう意味では法に触れた行為をした疑いがあるのが大前提です。

ですが、国際法や国連の被拘禁者最低基準規則(マンデラルール)などを持ち出すまでもなく、入管の規則や、入管が通そうとしている改正法でも、被収容者の健康維持は入管の責務とされているのです。

入管収容はあくまで強制送還の準備のために認められているものです。刑罰ではありません。ですから、被収容者は、移動の自由について一定の制限を受ける以上の制約を受ける謂われは全くないのです。

入管内部の調査では全然ダメ

上川陽子法務大臣は、スリランカ人女性死亡事件について入管の内部調査を指示したとのことです。


ですが、これまでの経験からすると、全く役に立たないのは目に見えています。

2010年に強制送還のため飛行機に乗せられて制圧され、亡くなったガーナ人男性の事件における入管当局の内部報告書では、「送還便搭乗直前から激しく抵抗し、搭乗後も抵抗したことから護送官が制圧した」とされています。

ですが、訴訟になってからようやく開示されたビデオを見たところ、男性が全く抵抗していないことが誰の目にも明らかになりました。

2014年3月30日のカメルーン人男性死亡事件の入管内部報告書(5か月後の同年9月2日付!)では、「前日(3月29日)夕食を摂取し、異変に気づく直前(3月30日午前5時58分)には体動があり、呼吸をしていたことが確認されていることから、急死事案である。」とあります。

ところが、午前5時58分に顔を動かす場面が出ていたとされているビデオは、誤操作で消去されたと入管が述べています。

そして、この9月2日付報告書では、後に私たちが提出させたビデオで、男性が「I'm Dying!!!!」と叫び続けている場面について何ら言及がありません。


複数の医師に、死因に関する調査依頼をしていますが、その医師たちもこのビデオを見た形跡がないのです。

入管内部だけの調査では、これらビデオは出てきません。プライバシーの問題はあるでしょうが、今回のスリランカ人女性死亡事件でも、少なくとも国政調査権を有する国会議員さんたちには開示すべきです。


死亡は防げた

今回のスリランカ人女性について、支援団体からの情報提供により色々な事実がわかってきています。

その中には、医療措置を希望していただけでなく、仮放免申請もしていたという情報がありました。

2019年6月に大村入管で亡くなったナイジェリア人男性の件で、法務省は、2018年2月28日に出された入管内部の仮放免指示に基づき、男性に前科がありその内容からして職権仮放免をするのは相当でなかったと報告書で述べています(以下PDFファイルの12頁〜13頁)。

この報告書が「職権仮放免をすべきではない」ことの論拠としている2018年2月28日付法務省入管局長通知はこちらです。


では、今回のスリランカ人女性は、2018年2月28日の仮放免指示に照らして原則として仮放免を認めるべきではない類型の人だったのでしょうか。

これまで得られているからすると、この仮放免指示で原則として仮放免を認めないとされる8類型にあたる方とも考えられません。

8類型にあてはまる事情があったとしても、「重度の傷病等、よほどの事情」があれば仮放免を認めても良いというものでした。

なぜ仮放免が認められなかったのか、不思議です。

仮放免するか否かは、入管の胸先三寸で決められるのが、最大の原因です。外に出られていれば自らあるいは支援者が救急車を呼ぶこともできたでしょう。

入管の中にいては自ら救急車を呼ぶこともできません。外部の支援者が呼んでも追い返されたりするのです。


入管法改悪反対

退去強制事由に該当する外国人を収容することを原則とする全件収容主義を改めること、収容は送還確保のための制度ですから逃亡の危険がない限り収容できないよう要件を明確にすること、判断の公正さを担保するために司法審査を導入すること、収容の上限を定めることが必要なのです。

長期収容解消のための制度として、政府提出の入管法案では「収容に代わる監理措置」の新設が提案されていますが、入管の胸先三寸だけで決められることには変わりなく、何ら解決になりません。そのことは、今回のスリランカ人女性が入管内部の基準に照らしても仮放免されるべきなのにされなかったことからも裏付けられます。

終わりに

今回のスリランカ人女性死亡事件については、入管内部の調査に任せては駄目です。必ず同じことが起きます。

また、内部基準すら守れない入管に収容の適否判断を委ねたままにする入管法改悪には反対します。廃案にして、出直すべきです。




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koichi_kodama
東京生まれ、ほぼ東京育ち。早稲田大学卒。1994年弁護士登録。2009年から代々木上原で法律事務所経営 http://milestone-law.com/ Photo by Kanako Baba