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やっぱり変わっていなかった。2023年入管法案は廃案になった2021年法案と中身おんなじ。原則収容主義から転換していない。

2023年3月7日、政府は入管法改定案を閣議決定し、法案が出入国在留管理庁のWebサイトに掲載されました。公表前の報道では、廃案になった2021年法案と同じ骨格のもの、ということでした。

新旧対照表で条文を一通り読んでみましたが、「骨格が同じ」どころではないです。数ヶ所を除いては全く同じ。変わったところを探すのは、サイゼリヤの間違い探し並みに難しいと思います。

2021年法案と条文の文言が変わっているのは、収容に代わる監理措置の部分ですが、中身は全く変わっていません。

「原則収容主義」からの転換というけれど…


この改定案で、これまでの「原則収容主義」からの転換をはかった、という報じ方をするところもあります。

確かに、収容令書による収容段階も、退去強制令書が発付された段階でも、収容をするのか、監理措置に付して収容をしないのかを選ぶことにはなりました(法案39条2項、52条8項)。
でも、今の法律も


39条1項
 入国警備官は、容疑者が第二十四条各号の一に該当すると疑うに足りる相当の理由があるときは、収容令書により、その者を収容することができる。
52条5項
 入国警備官は、第三項本文の場合において、退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときは、送還可能のときまで、その者を入国者収容所、収容場その他出入国在留管理庁長官又はその委任を受けた主任審査官が指定する場所に収容することができる。

とあります。太字にあるとおり、「できる。」と書いてありますから、収容しないこともできるんです。収容するかしないかの選択肢はあるんですよ、法律上は。
でも、出入国在留管理庁は「できる。」と書いてある条文を捻じ曲げて、「しなければならない。」と解釈し、「原則収容主義」とか、「全件収容主義」という建前を主張し続けてきたのでした。
なので、収容するか、監理措置をして収容しないか、という選択肢ができたことは、実は現行法と変わりがないのです。
そして、実務上も、オーバーステイの方が在留特別許可を求めて自ら出頭した場合には、形式上収容令書を発付し、その場で仮放免許可をして拘束はしないことは一般に行われています。収容令書段階の監理措置は、この実務運用を追認したものにほかなりません。

収容か監理措置かは主任審査官の思うがまま


では、その収容に代わる監理措置は、どんな場合に認められるのでしょうか。

2021年法案の収容令書段階での条文は


「(主任審査官は)容疑者が逃亡し、又は証拠を隠滅するおそれの程度その他の事情を考慮し、容疑者を収容しないでこの章に規定する退去強制の手続を行うことが相当と認めるとき」

に監理措置に付する決定をするものとする、とされていました(2021年法案44条の2第1項)。
これに対し、2023年法案は


「(主任審査官は)容疑者が逃亡し、又は証拠を隠滅するおそれの程度、収容により容疑者が受ける不利益の程度その他の事情を考慮し、容疑者を収容しないでこの章に規定する退去強制の手続を行うことが相当と認めるとき」(2021年法案44条の2第1項)

となりました。太字の部分が追加されたものです。

外国人の受ける不利益の程度も考慮されるよう明文で書いてもらった、わーい、と喜ぶべきかというと、全くそんなことはありません。無意味です。だって「その他の事情」に、そんなことは当然含まれているのですから。一つも良くなっていません。

退去強制令書段階の監理措置も「逃亡し、又は不法就労活動するおそれの程度その他の事情」だったのが(2021年法案52条の2第1項)、「逃亡し、又は不法就労活動するおそれの程度、収容により容疑者が受ける不利益の程度その他の事情」(2023年法案52条の2第1項)となっただけで、全く同じです。

結局、主任審査官(地方出入国在留管理局長とか次長が指名されています)が、「その他の事情」を考慮して「相当と認めるとき」でないと収容されてしまうのです。現行法が「できる。」としている収容を、全件、原則としてしなければならないと捻じ曲げて解釈してきた彼らにフリーハンドを与えてしまうのです。どこが原則収容主義からの転換なのか、さっぱりわかりません。

3か月毎の見直しも期待できない

2021年法案になかったのが、収容を続けるか、監理措置にするかを3か月毎に見直す規定です(2023年法案52条の8第2項以下)。
これは、3か月毎に主任審査官が上記の「その他の事情」を考慮して、「相当と認めるとき」かどうかを検討し、監理措置にしないときには出入国在留管理庁長官に報告する、長官が監理措置に付するべきと考えたときにはそれを命じることができるというものです。

しかし、一度監理措置にしないと判断した主任審査官が3か月後に考えを改めるとは考えにくいです。さらに、その判断を同じ入管の上司である長官が覆すとも思えません。そもそも、3か月の間に被収容者は監理措置を認めてくれ!と請求して判断を仰ぐこともできるのです(2023年法案52条の2第4項)。
さらに、現行法では収容令書は原則30日間、「やむを得ない事情」がある場合にもう30日間延長ができますが(入管法41条)、この延長が内部手続で認められなかったという事例は聞いたことがありません。


英国の移民専門弁護士とかつて話をしたときに、日本では収容するかどうかを決めるのも入管、仮放免で解放するかどうかを決めるのも入管だと言ったら、呆れ顔で、こんなことを言いました。

「入管は彼らを収容したくてしている。そんな入管に出してくれと言ったって出すわけないじゃない。」

全くおっしゃるとおりで、ぐうの音も出ませんでした。ちなみに英国では、収容は入管にあたる国境庁のみで行えますが、入管収容からの解放(保釈)は入管から独立した移民難民審判所が判断します。

ですから、入管内部による3か月毎の見直しは形骸化することが目に見えています。

報告義務も過料の制裁も残る


また、2021年法案では、監理措置を付するには監理人を選ばなくてはならず、その監理人は解放された外国人の生活状況などを入管に報告する義務があり(2021年法案44条の3第5項、52条の3第5項)、それを怠ったり虚偽報告をした場合には過料といって、まあ罰金みたいなものを科される可能性がありました(2021年法案77条の2第3号・4号)。

2021年法案の2021年法案44条の3第5項、52条の3第5項は以下のとおりで、監理人であれば全て生活状況を報告(届出)なければなりませんでした。

監理人は、法務省令で定めるところにより、被監理者の生活状況(中略)を主任審査官に対して届け出なければならない。

この点について、2023年法案では緩和されたという趣旨の報道もありますが、条文は以下のとおりです。


「主任審査官は、被監理者による出頭の確保その他監理措置条件等の遵守の確保のために必要があるときは、法務省令で定めるところにより、監理人に対し、当該被管理者の生活状況(以下略)の報告を求めることができる」(2023年法案44条の3第5項、52条の3第5項)

もうわかりますよね。

確かに2021年法案では全ての監理人に義務付けられていたのが、2023年法案ではそうではなくなっています。でも、主任審査官が必要があると認めたときは報告義務を課すことができるのです。全件について「必要がある」と判断するのは目に見えています。これに対して不服申立の手続もありませんし、訴訟するのも難しいでしょう。

そして、過料の制裁は残ったままです(2023年法案77条の2第3号・6号)。


収容令書段階での就労許可では足りない


なお、退去強制令書が発付される前の段階であれば、主任審査官が「被監理者の整形を維持するために必要であって、相当と認めるとき」には、就労が許可される制度が盛り込まれました(2023年法案44条の5)。これは2021年法案にもありました。

ですが、実は2015年ころまでは、仮放免許可の条件に就労禁止は入っていませんでした(以下の書籍第6章「どうすれば現状を変えられるのか」参照)。それまでは退令発付後の仮放免者も就労できていたのです。

そして、昭和29年には収容所の中で就労ができていたことが国会でも報告されています。

就労許可がきちんと認められれば、今の収容令書段階の仮放免より少しはマシになるかもしれません。ですが、2022年に国連自由権規約委員会で以下の勧告で指摘された「仮放免者」は、比較的期間の短い収容令書の段階よりも、退去強制令書発付後の長期間に亘る仮放免者の方がより深刻な状況に追い込まれているのです。


(c)「仮放免」の状況下にある移民に必要な支援を提供し、移民が報酬を得られる活動に従事する機会を設けることを検討すること。

https://note.com/koichi_kodama/n/ncac23fd88427


国連勧告を無視した2023年入管法案

このように、2023年法案が原則収容主義からの転換だとかいうのは大きな誤りです。

2022年11月3日に国連の自由権規約委員会は、以下のとおり勧告をしました。

収容代替措置を提供し、かつ、最長期間の入管収容の上限を設定するための措置をとるとともに、収容代替措置が正当に検討された場合にのみ、最短の適切な期間のみ収容が認められることを確保し、かつ、移民が収容の合法性を判断するために裁判所において効果的な手続をとることができることを確保するための措置をとること。

https://note.com/koichi_kodama/n/ncac23fd88427

今回の法案は、勧告にあった収容の上限も設定されず、裁判所において効果的な手続を確保するための措置もありません。
どうして、こんなあからさまなことができるのか不思議です。「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」としている憲法前文が泣いています。

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