SNS上の誹謗中傷、木村花さんの死から考えるべきこと

テラスハウスに出演していた木村花さんが亡くなったことをきっかけに、SNS上の誹謗中傷の問題をどう考えるか今議論がなされている。22歳。色々な選択肢があった人間が、死という選択をしなければならなかった、そうさせてしまったこの社会の罪は大きい。このようなことが二度と起こらないように、僕たちは少しでも改善策を考えなければならない。


誹謗中傷がなくなってほしいという気持ちは誰もが共有していることだと思うんだ。でも誹謗中傷を完全になくすことができるかといえば、残念ながら難しいね。

というのも、誹謗中傷と一括りで言ったところで、どういう言葉が誹謗中傷なのか、これは人によっても捉え方違うし、線引きが非常に難しい。

たとえば、髪の毛が薄い人に対して使う「ハゲ」という言葉。そういえば「このハゲー、違うだろー!」って叫んでた国会議員もいたけど、この「ハゲ」って言葉が誹謗中傷かといえば、これは言われた本人にとってみたら、そりゃいい思いはしないし、不特定多数の人から「ハゲ」って言われ続けたら嫌になっちゃうと思う。

そこで「ハゲ」という言葉を誹謗中傷として認定して、「ハゲ」という言葉を使った書き込みや投稿は全て削除するという法律ができたとする。めでたしめでたい、これで髪の毛の薄い人に対する誹謗中傷は完全になくなりました!となるかといえば、残念ながらそうはならないよね。だって、「ハゲ」って言葉じゃなくても、髪の毛の薄い人を悪くいう言い方なんて無限にあるわけだから。たとえば、薄毛野郎とか、バーコード頭とか、シャンプー楽そうだねとか、言葉っていかようにもなってしまうからね。

じゃあ他人を傷つける可能性のある言葉を全て誹謗中傷として規制すればいいんじゃないと思うかもしれないけど、それは表現の自由との関係でまずいことになってしまうんだ。

表現の自由は憲法21条によって保障されていて、権利の中でもっとも重要であると言っても過言ではない。というのも、表現の自由が保障されていれば、いざとなれば政権交代ができるという発想なんだ。つまり、表現の自由が保障されていれば、どんなに酷い経済的な政策を掲げている政権があったとしても、政権を変えて、政策を変えることができる。それこそ、政治活動の自由だったり、政府を批判したり、これは表現の自由が保障されているからできるわけで、最近話題になった検察庁法改正案についても、表現の自由が保障されているから、みんなハッシュタグを使ってツイートすることができたわけ。

つまり、表現の自由を過度に規制することは、政治を変えられなくなってしまう可能性を含む非常に危ないこと。だから、原則規制してはいけないことになっている。

じゃあ何を言ってもよいのかというと、そうではなくて、一定の場合には、責任を問われることがルール化されている。現行法の下では、名誉毀損・侮辱・脅迫・業務上妨害、がそれぞれ刑法によって規律されていて、これらに該当する書き込みや投稿をした場合は、一定の責任を問われることになる。たとえば名誉毀損なら、週刊誌がある芸能人について好き放題書いて社会的評価を下げるとか、侮辱なら、相手に対する軽蔑的な表現で社会的評価を下げるとか、脅迫なら、何月何日に誰々を殺害しますという書き込みをするとか、業務上妨害なら、ある店でコロナウイルスによるクラスターが発生しましたっていうデマを流すとか、このようなことをした場合には、裁判の対象となりますよ、もしかしたら損害賠償請求や刑事罰を受ける可能性がありますよ、というルールになっているんだ。

どういう書き込みや投稿がこれらに該当するかは、裁判所の判断。つまり、事後的な規制になる。先に述べたように、言葉はいかようにもなるから、事前に表現を規制することは難しい。だから、裁判で事後的に解決してくださいという考え方なんだよね。今、政府が議論しているのは、この事後的な解決の一環として、制度面を改善していこうというものなんだ。

というのは、現状の制度の下では、いざ裁判を起こしますとなった時に、様々な面倒なステップを踏まなければならない。SNS上は匿名だから、まず相手を特定するところから始まる。ここで開示請求というものをするんだけど、これが時間もお金もかかる。ここをまずクリアしないと、訴訟提起できない。そして、訴訟を提起できたとしても、裁判をやるのに時間もお金もかかる。そして、判決が出るまでものすごい時間かかる。もはや制度的に機能していないんだよね。さらにいうと、仮に裁判で勝ったとしても、もらえるお金が少ない。たとえば、アメリカであれば、名誉毀損の訴訟で1億円の損害賠償命令が出された事例があるけど、日本は頑張って100万円くらいで、少ない裁判例だと3000円とかもあるらしいね。3000円のために、自分何やってんだと、そう思っちゃうよ。

だから、政府が行っている議論は、開示請求をしやすくするであったり、訴訟提起の簡素化であったり、判決がすぐ出るように裁判官に働きかけるであったり、事後的な規制に関わる制度面の改革なんだ。そうすることで、今まで言いたい放題だった連中が、少しでも責任を持って発言するようになる。いざとなれば、すぐ訴えられますよ、下手したら刑事罰受けますよ、となることで、一定の抑止力が生まれるという考え方だね。

僕もこの制度面の改革によって誹謗中傷の数は減ると思う。実際に今回の件で、今までの書き込みに関する弁護士相談が増えてるらしい。

ただ、だからといって、誹謗中傷が完全になくなるわけではない。そして、制度面の改革をしたとしても、言葉は見た瞬間、聞いた瞬間にぐさっとくるわけだから、本当は、事前に表現を規制することはできないにしても、技術面の強化で、誹謗中傷に該当するような表現が含まれる書き込みや投稿などを当事者が見ないように設定できるようにするなど、事前的な措置も必要だと思われる。


表現の自由は、時に民主国家の強い武器となる。しかし、それは時に凶器と化し、他人を傷つける恐ろしいものだ。このことをしっかりとSNSを利用する全ての者が理解することが何よりも重要ではないか。


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