見出し画像

ありえないけど、どこかではあるかもしれないと思った本。『ゴリラ裁判の日』。

須藤古都離さんの 『ゴリラ裁判の日』を
読みました。


メスゴリラのローズが主人公で、元々ジャングルで暮らしゴリラの群れにいたのですが、ジャングルにある研究所で幼いローズと母だけが研究所の職員から手話を習い、言葉を得ます。(母よりもローズの方が人間と意志疎通ができます)


言語習得を買われたため、ローズはアメリカ行きのオファーを受けます。そして、ある動物園に受け入れられることになります。
そこで、事件はおきます。

ゴリラパークに4歳の男児が転落し、一命はとりとめたものの ローズの夫のオマリーに
男児がひきずられ、オマリーが動物園側に
射殺されます。



この物語がおもしろいところは
ここからです。



妻であるローズがなんと
動物園側を相手どり裁判を起こします。

しかし、ゴリラが相手の裁判には
もとから勝ち目がないのです。
一度目の裁判では、どんなにローズが訴えたところであまり相手にしてもらえない描写が続きます。



ローズには数々の人間の仲間がいます。
研究所時代からの旧知のチェルシーとサム。
アメリカで知り合い、初対面でもローズをゴリラと思わずに打ち解け親友となるラッパーの韓国籍のリリー。
ローズの一度目の裁判の敗訴を知り、2度目の裁判を受けてくれた凄腕の弁護士、ダニエル。




ローズは彼らがいることで
悲しみから少しずつ救われていきます。



ゴリラが裁判をしたり、プロレス団体に所属したりと突飛なところもある本作ですが、ゴリラが人間と意志疎通ができるというところは、近未来 AIの発達によってもしかしたらなきにしもあらずなのではないかな、と思いました。


本を読んでいるうちに たまにローズが人間なのかゴリラなのかわからなくなってきます。


それだけ感情のぶつけ方が素直なのです。


この本でいちばん印象的だったのが
弁護士ダニエルが、裁判終盤で柵から落ちてしまった男の子の母アンジーに放った言葉でした。
アンジーも事件後 「なぜ男の子をちゃんと見ていなかったのか」と数々の誹謗中傷を受けてきた被害者でもあります。

ダニエルは証人として立つアンジーに向けて
こう言います。

「あなたは世間から大きな批判を浴びていました。ですがそんな時に、あなたを責めるのは間違っていると主張する者が現れましたね。その主張のおかげであなたへの批判はなくなりました。そのだれかはこの法廷にいますね、指を差してそれが誰だったか教えてもらえますか?」と。


アンジーはローズを差します。


これが、この本の真髄な気がします。



動物と人間の平和。


難しいとは思いますが、この本に少し託したような気になりました。



ここまでお読みいただきまして ありがとうございました。















この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?