118D43【国家試験解説】前期破水

D43 32歳の初産婦(1妊0産)。妊娠32週、水様帯下を自覚し来院した。これまで妊婦健康診査で異常を指摘されていない。体温36.9℃。脈拍80/分、整。血圧 110/80 mmHg。内診所見は子宮口開大度1.5cm、展退度30%、先進部は児頭で あった。膣鏡診で羊水の流出を認める。胎児心拍数陣痛図を別に示す。適切な対応はどれか。

a 頸管縫縮術
b 緊急帝王切開
c オキシトシン投与
d ベタメタゾン投与
e 塩酸リトドリン投与


※下にスクロールすると解説と解答が表示されます。




前期破水(PROM:Premature Rupture of Membranes)とは、分娩が始まる前に羊水が破れる状態を指します。
つまり、陣痛開始前(有痛性の10分ごとの収縮収縮)に破水することで、妊娠週数は問いません。
通常、羊水の袋は分娩時に自然に破れるものですが、前期破水はそれが予定より早く起こることを意味します。
前期破水の管理は妊娠週数や胎児の状態、母体の健康状態によって異なります。
この状態は、早産のリスク、感染のリスク、そして稀ではあるが臍帯の圧迫などの合併症を引き起こす可能性があります。

【前期破水の問題点】

1. 感染のリスク管理
前期破水が起こると、通常羊水を囲む卵膜が胎児を外界の細菌から保護する役割を果たします。
卵膜が破れるとこの保護機能が失われ、細菌が上昇して子宮内感染(羊膜炎)を引き起こすリスクが高まります。従って、母体と胎児の感染徴候を注意深く監視する必要があります。

2. 早産のリスク
前期破水は早産の一般的な原因です。
羊水の破水が起こると、多くの場合、自然な分娩が刺激され、早産につながります。
早産は、胎児の肺やその他の器官が未熟なため、新生児にさまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。
妊娠を継続させたい場合(妊娠26週未満、ベタメタゾン投与開始後48時間以内)子宮収縮抑制薬を使用します。


3. 胎児の健康状態の監視
前期破水後は、胎児の心拍数や動きを定期的に監視することが重要です。
これにより、胎児がストレスや感染にさらされていないかどうかを評価することができます。


【週数による方針の違い】
・妊娠26週未満
この時期に前期破水が起こると、医師は通常、できるだけ妊娠を長引かせることを目指します。これは、胎児の肺が未熟であるため、早産を避けるためです。ステロイドを投与して胎児の肺の成熟を促進することが一般的です。感染の兆候がない限り、積極的な管理が行われます。

・妊娠26週以降、34週未満
この時期の前期破水は現時点では『新生児科の設備や治療成績によって決定する』とされています。
おおよその周産期施設では『●週以降は妊娠帰結』と決めているところが多いです。
これは、胎児の未熟成により主に新生児呼吸窮迫症候群、壊死性腸炎、頭蓋内出血を起こすため、これらの予防や適切な早産を避けるためです。
ステロイドを投与して胎児の肺の成熟を促進することが一般的です。
感染の兆候がない限り、積極的な管理が行われます。

・妊娠34週以降
この時期に前期破水が起こった場合、分娩を促進することが一般的です。
胎児の肺が十分に成熟していると考えられるため、妊娠を継続するリスク(特に感染のリスク)が胎児を継続的に子宮内で保持する利益を上回ると判断されます。

a. 頸管縫縮術:
妊娠中期に頸管無力症を示唆する場合に考慮される手術です。
しかし、このケースでは前期破水が既に起きており、子宮口がわずかに開いている(開大度1.5cm)状態であるため、頸管縫縮術は推奨されません。

b. 緊急帝王切開:
緊急帝王切開は、母体または胎児に直ちに生命の危険がある場合に行われます。
このケースでは、母体と胎児の即時の健康リスクが特に指摘されていないため、この選択は最も適切な対応ではありません。

c. オキシトシン投与:
分娩を促進するために使用される薬剤ですが、この場合、32週という妊娠週数を考えると、早産のリスクが高まるため、オキシトシンの投与は適切ではありません。

d. ベタメタゾン投与:
ステロイド薬であり、胎児の肺の成熟を促進するために用いられます。
32週の妊娠で前期破水が起きた場合、胎児の肺成熟を助け、早産による合併症リスクを低減するために推奨されます。
この選択肢は、このシナリオにおいて最も適切な対応です。

e. 塩酸リトドリン投与:
陣痛抑制薬であり、早産の兆候がある場合に使用されます。
しかし、このケースでは胎児の肺成熟を促進することが最優先事項であり、子宮収縮も認めないため、最初の対応としては推奨されません。

結論
このシナリオでは、d. ベタメタゾン投与 が最も適切な対応です。
この措置は胎児の肺の成熟を促進し、前期破水による早産が発生した場合の胎児の生存率と健康状態を改善することを目的としています。

<前期破水の対応のコツ>

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