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足が多い虫

帰り道に、大きなムカデがいた。とても大きなムカデだった。
歩いている私がついた足のすぐそばにムカデはいた。ぎょえ、と思った。
にょろにょろうねうねとゆっくり移動して、人間に踏まれそうになりながらも、こいつも暑いと思っているのだろうか。
なんとか踏まずに横を通り過ぎたのだけど、しばらく奴の姿を思い出して心がぞわぞわとしてしまったので、私は家に帰るまで手をぎゅっと握りしめて歩いた。

足が多い虫は嫌なんだよねえ、という知り合いが何人かいたような気がする。私はにょろにょろと動くのが苦手なタイプで、足が多くてもダンゴムシのように塊が動くものは大丈夫だ。
高校3年生の夏休み前、受験の天王山を目の前にしながら定期テストを控えていて、焦っていながらも受験はまだ先だと思える微妙な時期のことだった。体育の授業の帰りに、同じクラスのあおいとまこちゃんがダンゴムシを拾って教室に連れてきた。のびのびとしたクラスだったので、みんななんとなくそれを受け入れて、それからしばらく教室でダンゴムシを飼った。最初は紙コップで飼っていたのだけど、気を抜くと脱走してしまうから、生物室から虫かごを借りてきて、土を敷いて、拾ってきた落ち葉も一緒に入れておくことにした。そのダンゴムシは1週間ぐらい教室の窓際にいて一緒に授業を受けた。
ある日登校したら、飼っていたダンゴムシがカラカラに干涸びて転がっていた。土を湿らせておかないといけなかったようだ。私たちは大変反省してダンゴムシに手紙を書き、校舎の横にあった植え込みの隅っこに手紙と一緒に埋葬した。成人式で学校に集まった時に、みんなで墓参りをしようと決めた。
成人式はコロナでなくなってしまったから、結局墓参りはできなかった。
高校時代どんなクラスだったかという話になると、私はいちばんにダンゴムシを教室で飼った日のことを思い出す。

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