読書ノート|『ほたるいしマジカルランド』寺地はるな
蛍石市の遊園地『ほたるいしマジカルランド』で働く人たちが主役の物語。ひらかたパークがモデルになっているらしい。高校生のときまでひらパーの広告が吊るされた電車でずっと通学していたからとても懐かしくなった。
別の世界に遊びに行っている気分を味わうテーマパークとはまた違って、遊園地は現実世界の中でとても楽しいことをしている感じがしてわくわくするし、こんなところで働けたら楽しそうだと思ったことも何度かある。だから、遊園地のことが大好きな人たちのキラキラしたお仕事小説だと思って読み始めた。
しかし、登場人物たちのほとんどは仕事がとても好きというわけではないようだった。仕事に悩みを抱えていたり、家庭で気になることがあったりする。こんなふうに仕事をしている大人って私たちの周りにもたくさんいるかも、と思う。遊園地で働いているからといって、毎日楽しくてずっと笑顔でいられる人ばかりではなかった。非日常を感じられるたのしい場所だけど、それを作り出す仕事を淡々とこなしている人がいて、彼らにも日常生活がある。いつも非日常の背景にいる彼らも、ひとりひとりが普通の人間だった。
彼らの悩みや不安は、劇的な出来事が起こったり、遊園地の奇跡で解決されるわけではない。誰かに言われた何気ない一言や、ちょっと頑張れた経験。それで少しだけ気持ちが前向きになったり、周りの見え方が変わったりする。小さいけれど、確かにいい方向に進み始める気配を感じとれて、読み終えると落ち着いたあたたかさがじんわりと心に広がった。
世界が薄暗く見えて心細いときに、こっちに光があるかもしれないとそっと導いてくれるような物語。
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