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海を見にゆく

改札を抜けると、
通りを挟んで正面に定食屋と新聞店があった。


背後の山の向こう側から、
斜陽というにはまだ少し早いくらいの淡い光が射している。


商店の薄暗いウィンドウの奥に、
売れ残ったであろう青い浮き輪が見えた。


潮の気配をすぐそこに感じながら、
通りを南に向かって歩く。


晩秋の通りには喧騒の余韻すらなく、
路面のアスファルトと路傍の草木が、
乾いた潮風を浴びて佇んでいる。


遠く通りの果てでは、
草臥れたモーテルが、
目を開けたまま眠っている。


空高く、
鳥の声が舞っている。


その声さえも巻き込むほどに、
深く深く息を吸い込む。


背中のリュックには、
水筒とカメラ、
読みかけの古本、
それと冷めたハンバーガー。
買い足すものは何もない。


あぁ
薄明に染まり始めた雲が、
自動車のエンジンの音が、
鳥の声が、
流れてゆく。


私は、ただ
海を見にゆくのだ。

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