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気づいたら、相手にインタビューをしていた、そして、うれしかった。

先日、約3年ぶりに、昔一緒にお仕事をしてお世話になった方と会って話をした。

会った日は、体感温度が低く、体の芯に少し堪える寒さだった。待ち合わせをした、新宿にある小さいカフェの中は暖かく、外気の温度差で、窓は結露が起きていた。くもった窓の流れる水滴を、もの珍しそうに見ながら相手の方は、「こういうの(窓の結露)を描いてみたいんですよね」と言った。話す相手は、絵を描く仕事をしている方だ。

昔話を懐かしむような話は、ほとんどしなかった。話した内容は、現在と少し先の話だ。今相手は、どんな状況で、僕と会ってない間、どんな事をしてきたか。これから、どんな事をやりたいのか、絵を描く立場として、どんな姿勢で仕事に臨みたいのか。あとは、どんなものが好きで、嫌いかなど、たくさん話をした。

いろいろ話しているうち、僕は相手の言葉ひとつひとつに、敏感に反応して、ちょっとでもニュアンスが汲み取れない時は「どういう事ですか?」と聞き直していた。相手の事を知りたかったのだ。相手の琴線に触れるもの、何を大事にしているのか、注意深く聞いた。

聞いていて「ああ、そう言う事か」と頷く事が何度かあった。でも、ほんとに、じぶんが分かっているかは、実のところは分からない。じぶんの思いこみが入ってるかもしれない。認識が間違っていたら、まずいので「こういう事ですか?」と確認した。相手の方は、嫌な顔もせずに「違います」「こうです」とちゃんと真摯に返してくれた。

相手のイメージやニュアンスの話になると、言葉では理解が追いつかないので、何回か繰り返し同じ事を聞いていたと思う。相手から何度か出てくる「かわいい」という言葉のニュアンスが、僕が思っている「かわいい」のニュアンスと微妙に違っていた。実際に、相手が言う「かわいい」がどういうものか、参考にイラストや写真を見せてもらって、感覚的に納得できた。

相手の方から出てきた言葉の多くは、以前仕事では聞けなかった内容だった。「じぶんって自己肯定感が高い人間です」「こういうのは嫌です」などなど。話を聞いて、相対的にじぶんの事と照らしあわせていた。「そこは理解できるかも」「ここは、イメージが湧かないなぁ」じぶんの事を、少し知る事ができた。


相手の事を知る上で、昔のじぶんだったら、こんな質問はしてなかっただろうなぁという内容があった。相手の言った事に対して「なんでなんですか?」と聞く事だ。

以前は、業界の常識や慣例と言われている事を前提で、クリエイターと話していた。相手が答える内容ひとつひとつに、業界の常識やじぶんの思い込みを先に入れ込んで聞いていた。だから、相手が言う事を、真面に聞いていなかった。相手が何か疑問に思った事や違和感を感じてる事に対して「仕事だから、そこを気にしてもしょうがないでしょ」って高をくくっていたのだ。

ちゃんと人の話に耳を傾けておらず、じぶんの都合でしか聞いてなかったのだ。表面上は、聞いていても、実のところ、じぶんの都合を優先させていた。だから、聞いたふり、分かったふりをして、物事を前に進める事だけを考えていた。そういう態度は、相手にも伝わっていたかもしれない。

理解を示す言葉を投げつつも、実のところは、そうは思っていない。昔の事を思い出して、そういう事を無意識に平気でやっていたなぁと感じる。こういう自分は嫌だなぁと思った(ただ、関わりたくない相手には、そういう事を、防衛本能としてしてしまうけど、それは別の話)


相手の方と、5時間くらい、話していた。お昼頃に話し始めたので、あたりは、暗くなっていて、お店の中は、薄暗く、従業員が小さいライトを、たきはじめた。もう夜だった。

お店を出て、帰り際、相手の方に「こんなに自分の事を話したのは久しぶり」と静かな声で呟いたのを、僕は覚えている。そうか、僕は、相手にずっとインタビューをしていたんだなぁと気づいた。

仕事として、前に進んでいるかは、実感がまだないけれど、相手の方の話をじっくり聞けた事が、その日は、満足で嬉しかった。帰りの電車で、余韻に浸りながら「うあー」と思ってしまう事があった。会話の中で、相手に、あんな質問してよかったのか、じぶんの思った考えや意見を率直に伝えてしまってよかったのか、思い返すだけで、相手が気分を害してないかという不安や、恥ずかしい気持ちが湧いてきた。

これから、どう動いていくか分からないけれど、相手の方と、これからは、以前のお仕事してた頃とは違う、仕事の関わり方ができたら、いいなぁと期待してしまっているじぶんがいる。期待値が高いあまり、ダメになっちゃった時の、じぶんや相手の凹み具合を考えると、少し怖いのだけれど、ワクワクが止まらない。

ほんとうに、この日は話を聞けてよかった。

サポートありがとうございます。カフェでよくnote書くことが多いので、コーヒー代に使わせてもらいますね。