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『演技と身体』番外編 舞台「相対性家族」 高山的演劇観

舞台「相対性家族」 高山的演劇観

今回は番外編ということで、いよいよ来週に迫った舞台「相対性家族」について書こうと思う。
僕が作・演出を務めるこの作品は、僕の初・舞台作品だ。この連載『演技と身体』の内容に沿ったワークショップから生まれた企画である。
演技というものを根本から捉え直し、これまで試したことのない手法で演出に臨んでいる。ただそうしたテクニカルな部分については舞台の本番前に話すべきではないだろう。そこで今回は僕が舞台というものをどう考えているのか書いていこうと思う。
作品は非常にシンプルなストーリーとテーマで構成されているので、このような鑑賞の手引きがなくとも十分に楽しんでいただけると思うが、その背後にどのような演劇観があるのかを知っても邪魔にはならないだろう。
だからこの記事は、観劇前に読んでいただいても観劇後に読んでもらっても、観劇しない人が読んだってよい。

映画と演劇の違い

僕はこれまで映画を作ってきたので、映画と演劇の違いにはよくよく注意して作品に臨んでいるつもりである。
中でも実感しているのが、映画と演劇では嘘と本当がまるで逆だという点だ。
映画ではロケセットで撮影をすれば基本的にはその空間は本物であるが、演劇はそもそも空間そのものが抽象的であり偽物である。
だが逆に、映画はスクリーンや画面を通して観るので、そこに映るものを肉眼で見ることはできず、物理的には平面とそこに映る光を眺めていることになる。その点、演劇はそこに人や物が物理的に存在するという実在性がある。
すると表現の手法も映画と演劇では逆になる。
僕は、嘘と本当が転倒して対称的になってゆくところに芸術の妙味があると思っている。つまり、嘘だと思っていたものが本当らしく思えたり、当たり前に本当だと思っていたことが幻想性を帯びてきたりする時、世界の見方が変わる契機を芸術は差し出すことになる。

嘘から始め、霊性を宿す

だから僕は、演劇空間は全くの嘘から始めるべきだと考える。
舞台セットによって空間を本物らしくすることもできるかもしれないが、それでも舞台空間の持つ抽象性は拭えない。舞台セットにリアリティを求める姿勢は、劇空間の抽象性を欠点と認識して補おうとする態度だ。
しかし、空間が抽象的であるということは、そこに意味を付与する余地が残るということでもある。そこで、今回はいかに劇空間の抽象性を維持するかということに努めている。
空間の抽象性を活かそうとする態度の一つに、舞台からセットを極力排除しようとする場合があるが、僕の考えはそれとも一致しない。
ただ空間が空間として広がっているだけでは、そこに意味が宿らない。意味はあくまで物に宿っていく。
だがそれはフェティシズムではない。この考えの背景にあるのはアニミズムだ。
アニミズムとは、遍在する生命の息吹が生物だけでなく物にも通っていると考える態度である。物に生命が通っていると考えるのは科学的な見地からは馬鹿げているように思えるが、芸術的な観点からは非常に役に立つ。
物に生命が通っていながらそれが普段感じられないのは、我々が物を物扱いしているからである。我々が物を生命として扱うならば、物は我々にその生命を開示する。物に霊性が宿る。
全くの嘘から始め、そこに霊性を宿していく。そして、物たちがその内に宿している生命を開示していくことによって、演劇の持つ実在性はますます力を持つようになる。

演劇の実在性

僕は演劇の実在性、つまり「そこにいる」ことの力を強く信じている。
たとえ観客が意識のレベルでそれを感じないとしても、物と人、人と人とが重力子を交換し合うという単純な物理現象に喜びを見出すことができると思っている。
例えば、今回は僕が舞台美術も担当しているのだが、美術にしても離れて観たらわからないような小さな凹凸を大切にしている。映画だったら最後には全て平面(2次元)に還元されてしまうが、演劇はそうではない。認識されなくても、立体は立体としてお客さんに届く。人が動いていなくても、そこに質量が存在するだけで、そのことがお客さんに無意識レベルで届く。
そのことを強調した結果、演出としては少し変わったものになったし、人によってはわかりにくいと感じる人もいるかもしれない。
しかしこうした実在性を抜きに演劇というものを考えることはできない。ただ「そこにいる」ことがどれほど素晴らしいことなのか、僕は稽古を通して深く実感している。それが観てくれるお客さんにも伝わればいいなと思うし、それを伝えるべく最後まで稽古に臨みたい。

※【公演情報】10/27~30 初の舞台演出作品『相対性家族』が上演されます。


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「うちの夫、わたしから見たらスローモーションなの」
「うちの次男ときたら、まるで逆再生しているみたいだ」
「。よだり送早らた見らか僕、はんさ母」
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劇団一の会
Vol.52  相対性家族
作・演出:高山康平
@ワンズスタジオ
出演: 坂口候一  熊谷ニーナ  玉木美保子  川村昂志  粂川雄大
桜庭啓
大平原也(A) 梅田脩平(B)
10月 27㈭19時(A)
  28㈮14時(B)・19時(A)
  29㈯13時(B)・18時(B)
  30㈰ 13時(B)
ご予約: https://www.quartet-online.net/ticket/sotaisei?m=0ujfaee


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