実証研究紹介８：システマティック・レビューについて

このページでは自分の専門と関連する分野を中心に、最近の査読付き学術誌（英語）での社会科学の実証研究結果について紹介していこうと思います。このようなページを書こうと思った動機は、日本での政策議論や論壇等で国際的な査読付き学術誌での実証研究成果にあまり目が向けられていないと思ったからです。細かい内容紹介や訳出は時間の制約上できかねますので、この投稿が論文の存在を知るきっかけ程度になればと思います。紹介した論文の送付もできかねますので、ご自身で入手をお願いします。

今回は実証研究成果ではなく研究手法の紹介です。先行研究を一定の手続きに従って網羅的に把握するシステマティック・レビューの方法は医療の分野を中心に使われていますが、政治学の分野での利用は限定的です。

筆者が知っている限り、経営学ではかなり採用されていますが、政治学では殆ど採用されておらず (ARPSはシステマティックという手法は採用されていない）、行政学では最近頻繁に使われるようになりました。

公共政策に近い分野ではより活用されています（その他の分野の方で情報お持ちでしたらコメント頂けると嬉しいです）。個人的には政治学・行政学の分野で定着したらよいと思っていることの一つです。

既存の実証研究結果をレビューを行わずに、または任意に一部の論文の結果のみを踏まえた上で、実証分析を行うのではなく、過去の実証研究結果を網羅的に体系立て、何が機能するか、機能しないか、そもそも同じ研究目的をもっているのか等を把握することは実証研究結果の蓄積・発展に繋がっていきます。

例えば、民主主義体制や政府の質が経済発展、マクロレベルの社会経済指標に与える影響を分析したいとします。先行研究では、扱う変数や対象国も異なっていたり、対象となるパネルデータの期間も異なることが通常です。

通常の論文では、スペースの都合等で体系立てて先行研究をレビューすることが出来ずに、いくつかの代表的な先行研究を紹介する場合が殆どです。しかしそれでは恣意性が残るため、論文検索ベース等をもとに透明性の高い手続きに従って先行研究を網羅的に把握、分析して一つの論文として発表するのがシステマティックレビュー論文です。

システマティックレビューとは過去の研究結果を評価、要約し、結果や研究成果を伝えるための科学的ツールです（Green 2005)。

システマティックレビューは、過去の関連する全ての研究を特定し、評価、総合させることで（Petticrew and Roberts 2005）、エビデンスベースの政策決定や行政経営上の知見を発展させる。システマティックレビューは通常のレビューとは異なり、再現性があり、科学的で透明性の高い手続きを採用し、網羅的な出版された（未出版も含む）文献検索を行い、レビューに当たっての研究者のバイアスが発生することを防ぐことを目的とする(Tranfield et al. 2003)。

既に日本語で医療分野での優れた紹介の論文やページがあるので、例えばこちらをご覧ください　

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（補足）

システマティックレビュー論文ではどのようなトピックや研究設問を扱えばよいのでしょうか？

例えば、Kennedy (2014)の代表的官僚制についてのシステマティックレビュー論文では1944年から2011年にまで出版された代表的官僚制をテーマとする93論文をレビューの対象として、次の事項についてそれらの論文でどのように書かれているかについて、整理をしています。

⓵代表的官僚制の定義:　先行研究がどのように代表的官僚制を定義しているのか。93論文のうち定義を含めているものが51, していない論文が39、複数の定義を示している論文が３論文

②代表的官僚制で注目する性質：人種、性別、所得、宗教、教育等

③分析対象のレベル

④分析対象の政策分野

⑤研究方法（定量、定性、混合、歴史分析、理論研究）

これらに加えて、レビューの対象となった論文から導き出される研究課題についてまとめています。

システマティックレビュー論文では、あるテーマについての先行研究が何に注目して行われたのか、どのような国や地域が対象となったのか、どのように課題や概念が定義されているのか、どのような方法で分析されたのか、どのような結果になったのか、等に注目し、これまでの実証、理論研究から分かったこと、分かっていないことを明らかにし、今後の研究課題を提案するのが一般的な流れです。

筆者の勤務する大学で大学院生向けの授業でシステマティックレビュー論文を書く課題を出していますが、学術論文を体系的にレビューする機会はなかなかないため、学生からは大変役に立ったと聞いています。課題へのリンク

システマティックレビューとは何か、方法論についての文献紹介

Green, Sally. 2005. "Systematic reviews and meta-analysis." Singapore medical journal 46 (6):270.

Petticrew, Mark, and Helen Roberts. 2005. Systematic Reviews in the Social Sciences : A Practical Guide. Williston, UNITED KINGDOM: John Wiley & Sons, Incorporated.

Moher, D., Shamseer, L., Clarke, M., Ghersi, D., Liberati, A., Petticrew, M., ... & Stewart, L. A. (2015). Preferred reporting items for systematic review and meta-analysis protocols (PRISMA-P) 2015 statement. Systematic reviews, 4(1), 1.

Tranfield, David, David Denyer, and Palminder Smart. 2003. "Towards a methodology for developing evidence‐informed management knowledge by means of systematic review." British journal of management 14 (3):207-222.

行政学分野での最近のシステマティックレビュー論文の紹介

Alexander Kroll (2015) Drivers of Performance Information Use: Systematic Literature Review and Directions for Future Research, Public Performance & Management Review, 38:3, 459-486, DOI: 10.1080/15309576.2015.1006469

Bart Voorn, Marieke L. van Genugten & Sandra van Thiel (2017) The efficiency and effectiveness of municipally owned corporations: a systematic review, Local Government Studies, 43:5, 820-841, DOI: 10.1080/03003930.2017.1319360

Clifton, Judith, Daniel Díaz Fuentes, and Gonzalo Llamosas García. 2020. "ICT-enabled co-production of public services: Barriers and enablers. A systematic review." Information Polity (Preprint):1-24.

De Vries, Hanna, Victor Bekkers, and Lars Tummers. 2016. "Innovation in the public sector: A systematic review and future research agenda." Public Administration 94 (1):146-166.

Hansen, J.A. and Tummers, L. (2020), A Systematic Review of Field Experiments in Public Administration. Public Admin Rev. doi:10.1111/puar.13181

Kennedy, Brandy. 2014. "Unraveling representative bureaucracy: A systematic analysis of the literature." Administration & Society 46 (4):395-421.

Kuipers, Ben S, Malcolm Higgs, Walter Kickert, Lars Tummers, Jolien Grandia, and Joris Van der Voet. 2014. "The management of change in public organizations: A literature review." Public administration 92 (1):1-20.

Lars L. G. Tummers, Victor Bekkers, Evelien Vink, Michael Musheno, Coping During Public Service Delivery: A Conceptualization and Systematic Review of the Literature, Journal of Public Administration Research and Theory, Volume 25, Issue 4, October 2015, Pages 1099–1126, https://doi.org/10.1093/jopart/muu056

McDonnell, Joshua. 2020. "Municipality size, political efficacy and political participation: a systematic review." Local Government Studies 46 (3):331-350. doi: 10.1080/03003930.2019.1600510.

Moyson, S., Raaphorst, N., Groeneveld, S., & Van de Walle, S. (2018). Organizational Socialization in Public Administration Research: A Systematic Review and Directions for Future Research. The American Review of Public Administration, 48(6), 610–627. https://doi.org/10.1177/0275074017696160

Valentina Mele, Paolo Belardinelli, Mixed Methods in Public Administration Research: Selecting, Sequencing, and Connecting, Journal of Public Administration Research and Theory, Volume 29, Issue 2, April 2019, Pages 334–347, https://doi.org/10.1093/jopart/muy046

Voorberg, William H, Viktor JJM Bekkers, and Lars G Tummers. 2015. "A systematic review of co-creation and co-production: Embarking on the social innovation journey." Public Management Review 17 (9):1333-1357.

Xiong, W, Chen, B, Wang, H, Zhu, D. Governing public–private partnerships: A systematic review of case study literature. Aust J Pub Admin. 2019; 78: 95– 112. https://doi.org/10.1111/1467-8500.12343

Sabbe, M., Moyson, S., & Schiffino, N. Citizen-agency versus state-agency at the frontline in prisons and probation services: A systematic literature review. Social Policy & Administration, n/a(n/a). doi:10.1111/spol.12633