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ムンバイという街の作り

2023年10月、出張にて1週間ほどインドのムンバイに滞在した。インド自体がほぼ初めて、ムンバイは完全に初めての滞在だった。
インドの首都はデリーだが、商業・金融の中心はムンバイ。人口は2,000万人と言われ、世界でも有数の大都市である。それだけの住民を収めるために、市の中心部であるIsland Cityと呼ばれる西側の半島部分には、超高層のオフィスとマンションが立ち並ぶ。
ムンバイの特徴は、これといった中心性もなく、街のどこにいても超高層ビルを見つけることができることだ。その立地の選ばなさは異常で、交通アクセスや周辺環境からして富裕層向けの建物が立地しうるとは思えないような場所でも開発が進む。その最たる例が、スラムとの隣接である。

メキシコシティサンタフェの例 (https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-45267736)

一つの壁を隔てて、一方は富裕層、もう一方は貧困層の街が広がる風景は世界中で見られる。上の写真はメキシコシティの例であるが、出典先にはムンバイの写真もある。その中でもムンバイの特殊なところは、このような「壁」が都市全体に点在していることだ。スラムがあり、その奥には超高層ビルが並ぶ。そのような風景が街の至る所で延々と繰り返されるのがムンバイである。

Dhobi Ghatというスラムの共同洗濯場
ムンバイ南部のとある街中で

ムンバイにおいて超高層の建物が林立することには、制度的な背景がある。インドにおいて建物の高さはFSI (Floor Space Index) という日本の容積率(FAR)に相当する基準によって制限されている。しかし、ムンバイにおいてはFARを移転するTDR (Transferable Development Rights)の取引が一般化しており、当局による容積率のコントロールが効かない状況となっている。その結果、開発できる土地と容積率を買える金さえあれば、どこでも超高層開発が可能となる。
なお、日本では容積率移転は限られた地域内でしか認められていないが、ムンバイにおいては都市全体で売買が可能であるようである。

想像だが、この容積率移転がスラムを手つかずのまま残す結果にもなっているのではないだろうか。地権者不明の土地の上空部の権利を他の土地に売ってしまい、そこでは再開発しても大した容積率を使えないという状況も考えられる。

また、超高層とスラムが隣接できる背景として、公共空間の貧弱さも考えられる。道路では曜日・時間を選ばず常に交通渋滞が激しく、歩行空間も特段整備されていないため気軽に出歩けるわけでもない。時間価値の高い富裕層はどのように生活をしているのか、と考えを巡らせてみると、(ヘリコプターで移動するか、あるいは)自分のマンションの敷地内で用を済ませているのではないか。
実際、再極端な例ではあるが、ムンバイには世界最高額の豪邸がある。プールや映画館を備えているらしく、一家族でこれを所有するのは訳が分からないが、超高層マンションの共有設備としては納得できそうだ。
https://toyokeizai.net/articles/-/52569


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