個人的2020年アルバムランキング BEST 5
もう2020年も終わりだ。一年の個人的ベストアルバムを考える季節になってきた。
今年は、よかったなと思うアルバムをただ羅列するだけではなく、誠に僭越ながら、それに順位をつけてみたい。読むほうも、そっちのほうが多少なりとも盛り上がるのではと思う。
もちろんわたくし加賀屋航平個人が選出するアルバムランキングであるので、偏りがあったり、一般的な評価と乖離した部分もあるだろう。その点はご了承いただきたい。
しかしながらそういう個人の意思がゴリゴリに反映されたランキングもそれはそれで面白いし、意味があるとも思う。チャート成績やリスナーアンケート等によって作られる評価やランキングが仮に「一般的」で「標準」のものであるとして、そういったものからの差異を楽しむことができるからだ。
「○○」という曲は世間ではすごく評価されているけれど、△△さんは厳しい評価を与えている。それはなぜだろう?△△さんの音楽観やバックグラウンドのせいかな?といったようなことを考えるのは個人的にすごく好きだし、面白いと思う。あるいは、△△さんはこの音楽に対してこう言っているけど、自分はこう思う、というようなことも同様だ。
それが先ほど述べた「差異」であり、ここがオモシロイ(と、思っている)。ある意味「みんな違ってみんないい」的な価値観がまかり通るのが芸術であり、音楽だ。楽しい。
前置きはこれくらいにしておいて、早く本編にいこう。
順位の付け方はかなりテキトーだ。「これヤバ!めちゃくちゃええやん!!」と思った度合とか、聴いた回数とか、個人的な思い入れとか、「これは〇位に入れときたい!」という思いとか、全部コミコミの総合点で考えた。
今回ランキングに入れたのは(ランク外含め)2020年にリリースされたアルバムだけに絞っているので、2019年以前の作品は入れていない。
ということで、まずは洋楽のベスト5。
第5位 (洋楽)
Soccer Mommy『color theory』
第5位は米ナッシュビルのSSW・Sophie Allisonによるプロジェクト、Soccer Mommyの2nd AL『color theory』。以前のnoteの投稿でも書いたサッカー・マミーだが、今回は第5位にランクインだ。個人的に「今年のベスト!」って感じはあまりしないのだが、ランク外にするには申し訳ないぐらいの回数聴いた気がするので、5位。
ジャンルでいうとインディ・ポップに入るところではあるが、近年多発しているインディ系女性SSWに比べると、幾分歌がストレートで聴きやすく、かつしっかりオルタナな感じがある。つまるところ、最高。ジャケットも良い感じ。これはアナログレコードを買った。本当は盤が色付きのカラー・ヴァイナルが欲しかったのだが、間違えて普通の黒盤を買ってしまった。今となっては良い思い出。
どの曲もめちゃくちゃ良いけど、M6「yellow is the color of her eyes」が特に最高。
第4位 (洋楽)
Bloodwitch『I Am Not Okay With This (Music from the Netflix Original Series)』
Netflixオリジナルのドラマ『ノット・オーケー』のサウンドトラックアルバムが堂々の第4位にランクイン。正直回数でいうとあんまり聴いてない.....のだが、サウンドトラックオンリーのアルバムとして破格のカッコよさ、そしてドラマ自体がお気に入りだったことを考慮して、4位にしてみた。
このBloodwitchは、このドラマ『ノット・オーケー』の登場人物・スタンが好きな架空のバンドとして、実際に作中に登場する。まずその設定自体がかなりイカしてるし、実際に曲もめちゃくちゃカッコいい。なんてったってこのサントラアルバムを手掛けているのはBlurのギタリスト、グレアム・コクソンである。そんなの良いに決まってる。
内容はというと60sっぽいガレージ・ロック、The Velvet Undergroundのようなサイケ感、モロにジザメリなシューゲイザー、ジャングリーなギター・ポップ、など言葉にすると雑多な感じがしなくもないが、聴いてみるとふつうに「カッコいいロック」といった印象を受ける。ドラマ中では実在するバンドというテイなので、全曲歌入りでインスト曲はない。
惜しくもドラマは1シーズンで打ち切りになってしまったが(こればかりはNetflixを恨む)、まずはドラマを観てから聴くのが吉。でもロック好きならドラマを観ずとも楽しめる内容だ。ジャケットも超良いので、アナログ化を強く希望。アナログ映えしそうなサウンドだし。The Jesus and Mary Chain、The Vaselines、The Velvet Underground、Blurが好きな人におすすめ。
第3位 (洋楽)
The Strokes『The New Abnormal』
以前ディスクレビューもしたThe Strokesの最新アルバムが第3位。まあ他との兼ね合いを考えるとこの位置が(自分的には)妥当な感じかなということでの3位。
ストロークスのディスコグラフィのなかで今作が飛び抜けて良かったり異端なアルバムだということは個人的にはないように思うが、さすがのストロークスの新譜という感じで、文句無しの名盤。9曲で45分と、他のアルバムと比べると1曲1曲が長いのかな。でも冗長なアルバムという印象は全くなく、相変わらずスタイリッシュ。
個人的に、コロナ禍で発表された最初の大型新譜というイメージを持っている。まあこのアルバムは一般的な2020年ベストでも上位に入ってきそう。M4「Bad Decisions」がとにかく名曲。これはLPではなくカセットを購入。
第2位 (洋楽)
The 1975『Notes On A Conditional Form』
そして第2位は今や"超"大型新人となってしまった(もう新人ではないか...)The 1975の4th AL『仮定形に関する注釈(邦題)』。僕が知ったときは「耳が早い洋楽ファンが好き!」って感じのバンドだったのに.....。びっくりするぐらい売れたなホンマ。
僕の超大好きソング「Me & You Together Song」をはじめ、先行シングルが本当に全曲良い。アルバム曲はそのシングル曲の間をいい感じに埋めて、アルバム全体の世界観の構築に貢献しているという印象。なのでこの1時間20分という尺もあり、まず初心者はアルバムを聴き通すのに苦労するだろう。The 1975初心者はまずシングル曲から入り、一度ハマってから今作を聴くのがおすすめだ。良くも悪くも「聴きごたえ」はかなりあるので、既にファンという人には超名盤に映る一方、ビギナーに対するハードルの高さも兼ね備えてしまっている。
いろいろ言ったが、僕は今作かなりの回数聴いた。今までのどのアルバムよりもたくさん聴いていると思う。ちょうど『THE ERA』のレコーディングの時期ぐらいに聴きまくっていた思い出がある。個人的に好きなのはやはり「Then Because She Goes」~「Jesus Christ 2005 God Bless America」~「Roadkill」~「Me & You Together Song」の流れ。あとDisc 2(C面/D面)は全体的に好きかな。いや、アルバム全部好き。
これはレコードを買った。ホワイトカラーの2枚組ヴァイナルを意気揚々と予約した記憶がある。2枚組LPになると全22曲がA面・B面・C面・D面に4分割され盤をひっくり返したり入れ替えたりしながら聴けるのだが、これくらいボリュームのあるアルバムでも難なくサラッと聴けてしまうようになるのでかなりおすすめ。
第1位 (洋楽)
HAIM『Women In Music Pt. Ⅲ』
そしてThe 1975の新作を抑え、堂々の第1位となったのはカリフォルニアの3姉妹バンド・HAIMの『Women In Music Pt. Ⅲ』。いやそれはないって、という声が聴こえる。The 1975越えはないぞという声が。確かに普通にいくとあちらが1位な感じではあるが、HAIMに関してはファンになったのが今年に入ってからで、それに対する僕の急激なフェイバリット具合を考えると、ビックリ度を踏まえて1位。いやぁ、これ、本当に良いアルバム。
最初は、先行シングルの「The Steps」をFM802のヘビーローテーションで知りマジで良い曲だなと思いつつも、その時点での最新リリースだったEP(今はSpotifyにない?)にはそこまでハマらなかった。のだが、何度か聴いているうちに「あれ?これめっちゃよくない??」となりはじめ、いつの間にかハイムの虜に。そして期待値爆増のなかリリースされた本作『Women In Music Pt. Ⅲ』が会心の出来で、ついには今年のベストに選んでしまうほど好きになってしまったのだ。
HAIMを知らない人に説明しようにも、ジャンルで言うのは少し難しい。ロックと一言でいうのはエッジィ過ぎるし、かといってインディ・ポップというほどオルタナティブな感じやローファイな感じがあるわけでもない。とにかく一言で説明するのは難しいが、逆に言うと聴く人を選ばないポップ/ロックということでもある。バンド好きが満足するようなギター・ベース・ドラムによるシンプルな編成の曲がある一方、最近流行りのポップスしか聴かないというリスナーの耳をも容易く守備範囲に入れられるような、アーバンな打ち込みサウンドの曲も存在する。インディファンからニワカファンまでどんと来い、な"超"万人受けの最強盤になっているのだ。
アルバムのオープニングを飾るM1「Los Angeles」がまず素晴らしい。ローテンションなドラムとベースのリズムに乗るサックスの音がとてつもなく気持ち良い。曲自体が夏っぽいのもあるけど、今年の暑かった夏を思い出す。そして続くM2「The Steps」で完全に優勝。ビートが良い、メロディが良い、音が気持ち良い、コーラスも心地良い、つまり"良い曲"。そうそう、HAIMはコーラスがめちゃくちゃ良い。そもそも同時に歌えるのが3人いる、というのもあるが、実の姉妹ということもあるのか声の混ざり具合もすごく綺麗で、それぞれの歌のニュアンスがフリーな感じのわりには、全体としてのハーモニーがめちゃくちゃ良い感じなのだ。
それ以降も先述の通り非常に聴きやすいポップ/ロックナンバーが続く。アルバム自体は全16曲51分とそこそこのボリュームがあるのだが、全体を通じて損なわれることのない「押しつけがましくなさ」のおかげで、ある意味"聴き流す"ことができるし無駄な重みや長さを感じない。M13「FUBT」(この曲がまたアルバムの終わり感あって良い!)まででアルバム本編が終わり、前作のEPに(たぶん)収録されていた「Now I'm In It」「Hallelujah」「Summer Girl」の3曲がボーナストラックとして収録されている。すこぶる名曲なこの3曲がボーナスとして収録されているのはなにぶん勿体無いような気もするが、まあこれはこれでいいだろう。
どの曲もかなり好きだが、特にお気に入りなのは「Man From The Magazine」~「All That Ever Mattered」~「FUBT」でアルバムが終わりに向かっていく流れだ。そのアルバムラストの雰囲気から、M14「Now I'm In It」のはじめのドラムの四つ打ちでケロっと明るい雰囲気に戻るところもかなり好きだ。
LPがその時点で品切れかつそこそこのお値段だったこともあり、このアルバムはカセットテープヴァージョンを購入。カセット映えするサウンドのアルバムなので、かなり満足。
ランク外、その他 (洋楽)
惜しくも5位までに入らなかったアルバムについても触れておきたいので、いくつか紹介する。「ランク外」とかいう言葉を使ってしまっているが、ランキング形式にした以上、便宜上使ってしまっているだけで、その音楽が5位以上の音楽より劣っているなどということでは全くない。以下で挙げる作品も、今年僕の琴線に触れまくったものであることに変わりはない。
beabadoobee『Fake It Flowers』
フィリピン生まれ、ロンドン出身のSSW・beabadoobeeの最新アルバム。過去作が所謂「ベッドルーム・ポップ」といわれるようなかなりローファイなものだったのに対し、デビュー作となる今作はそれとは打って変わったダイナミックでハッキリとしたサウンドが特徴だ。いかにもインディな昔の曲が好きだったので今作の先行シングルが次々と発表されていたときは正直かなりびっくりしていたが、アルバムはその不安を十分に覆す出来だった。M1「Care」がとにかく好き。ギターソロがカッコよすぎる。これは赤色のカラー・ヴァイナルを購入。エモと呼ばれるサウンドが好きな人はこのアルバム好きそう。
Beach Bunny『Honeymoon』
周りでなにやら話題だったシカゴのパワーポップバンド・Beach Bunny、聴いてみたら一発でハマってレコードも買ってしまった。パワーポップ好きの痒いところをこれでもかとピンポイントで掻いてくれる良盤。Weezer好きはもちろんだが、どちらかというとFountains Of Wayne好きにおすすめな感じ。最近でいうとCharly Blissなんかが好きな人は必聴。まずは大名曲M5「Ms.California」を聴こう。
boy pablo『Wachito Rico』
ノルウェーのSSW、ボーイ・パブロの待望のデビューアルバム。アルバムA面のほとんどをシングルで構成しB面をすべて新曲のアルバム曲にするという、ありそうであんまりない変わった構成になっている。かつての「Dance, baby!」に見られたようなあからさまなアゲアゲ感は目立たないが、シングル曲を筆頭に相変わらずのクオリティで、これまで以上にレイドバックできる内容だ。レコードを買ったのだが、盤面がジャケットに写っているバイクのパープルカラーになっていて、めちゃくちゃ良い感じだった。
Hinds『The Prittiest Curse』
スペイン・マドリード出身の4人組バンド、ハインズの新作。このアルバムで初めてハインズに触れたのであとから旧譜を遡っていったのだが、旧譜はかなりローファイなガレージ・ポップ/ロックという感じで、そっちはそっちでかなり良かった。今作はより開けたスケール感のあるポップ作、という感じでとても聴きやすい。1位にしたHAIMの新作と同時期に知り聴いていたので、当時はよく混同していた。HAIMと比べるとするならば、こちらのほうがいくぶんヤンチャな感じ。30分という短さもあり、なんやかんやよく聴いたアルバム。
Tame Impala『The Slow Rush』
映画『WAVES』の影響で夏に大ハマりしたテームインパラだが、サントラになっていた曲が2nd AL『Lonerism』の曲だったために本チャンでハマったのは『Lonerism』のほうだったので、2020年リリースの今作はランク外ということで。3rd AL『Currents』でのダンサブルな方向性をさらに押し進め、よりスタイリッシュになったという印象の今作。サイケデリック・ロックであることに変わりはないが、「サイケというよりはドリーミー」という感が強い。初期にあったビートルズ感は後退したが、その代わり現行のポップシーンにも対応できるような間口の広さがあると思う。ゆったりとした、気持ちの良い最新型サイケ・ロック・アルバム。ジャケットもカッコいい。
Khruangbin『Mordechai』
テキサス出身の3人組バンド・クルアンビンの3rdアルバム。Twitterかなにかで推されているのを見て聴いてみたらよかったやつ。調べてみるともともとインストのバンドらしく、前作まではすべてインスト作品だったようだ。今作以外の作品はまだ聴いたことがないのでこれから聴こうと思う。で、今回は初めてボーカルを取り入れたアルバムらしい。メディアでは「タイファンクの影響を受けている」と書かれているのだが、僕はタイファンクを聴いたことがないのでそのへんは正直よくわからない。まあでもファンクっぽい小気味良いグルーヴにアジアっぽいエキゾチックなメロディが乗っているのは確か。音数少なめのソリッドかつふくよかなバンドの演奏が心地良い。インディポップ、ファンク、エキゾチカ、サイケなどが好きな人は好きだと思う。ジャケットもなんかよくわからない感じが良い。M2「Time (You and I)」がめちゃくちゃいい。
Taylor Swift『folklore』
あまりにも話題なので聴いてみたらすごくよかったアルバム。正直これまでテイラースウィフトをめちゃくちゃ聴いていたわけではないのでアレなのだが、確かに今までに抱いていた「ポップさの権化」みたいな印象は全くといっていいほどなく、とても聴きやすい。メディアは「USインディーに接近した」と表現していて、自分もまあ大方そう思う。これまでのイカニモ売れ線な大衆ポップ感はなく、アルバム1枚通して地味と言えばかなり地味なのだが、なんとなくテイラーの「今回はこれでどうや!今までと違うやろ!聴いてみい!」というパワー感もしっかり伝わってくる。そしてなんやかんや言ってもテイラースウィフトというだけあって普通にポップ。これはたぶん2020年ベストに挙げる人も多いであろうアルバムだと思う。....................とか思ってたら最近また新しいアルバムがリリースされた。このボリュームでこのペースはヤバい。まだ1回しか聴いていないがガッツリ『folklore』路線のようだ。HAIMとのコラボがあるのがちょっと嬉しいところ。
以上、洋楽のベスト5とその他。
お次は邦楽。
第5位 (邦楽)
Base Ball Bear『C3』
まずは第5位、僕の青春のバンド・Base Ball Bearの8thアルバム『C3』。今作が発表された年始は、本当に毎日こればかり聴いていた。ベボベは高校生の頃からずっと大好きなバンドで、新しくアルバムが出ようもんならそりゃ毎日聴くよと。1st AL『C』、6th AL『C2』に続く"C"シリーズの3枚目ということで、今回はより気合が入っているアルバムなのかな...とファンとして期待していた。前作『光源』のあとにリリースされていた2枚のEP『ポラリス』『Grape』の曲がすべて収録されており、全く聴いたことのない新曲は少なかったのだが、そもそもその2枚のEPが名曲揃いだったこともあり(特に『Grape』がヤバい)、アルバムもなかなかの充実っぷりである。
曲の内容以前に、まずは楽曲のミックス(簡単に言うと音質)に注目したい。これまでの音圧重視のミックスから、ギター・ベース・ドラムそれぞれの楽器のダイナミクスを意識したミックスに明らかに変化している。楽器の音がより「生っぽく」「自然に」聴こえるようなミックスが施されているのだ。ギターソロ裏に足しがちなギターのバッキングをあえて入れていなかったり、ドラムとベースのビート感で引っ張る曲が多かったりと、メンバーのプレイヤビリティを曲とミックスの両方から魅せていくという意図がはっきりと見えるアルバムだ。
M6「EIGHT BEAT詩」、M10「ポラリス」、M12「風来」あたりは長年のベボベファンには必涙の内容。僕のお気に入りはなんといってもM2「いまは僕の目を見て」。
第4位 (邦楽)
Mr.Children『SOUNDTRACKS』
第4位はMr.Childrenの最新アルバム『SOUNDTRACKS』。もっと上位に置きたいところだが、リリースされたのがかなり最近なので、愛着や聴いた回数を考えこれくらいの順位にしておく。
先行シングル『Birthday / 君と重ねたモノローグ』『turn over?』からなにやら怪しい雰囲気は感じていた。「何やこれ、本当にミスチルか?新しすぎる」と。そしてドロップされたアルバムは「今までと全然ちゃうけど、なんかめちゃくちゃ楽しみ」という僕の期待に、大きく応えてくれるものだった。
今回のミスチルのアルバムで特筆すべきは、なんといってもそのレコーディングがロンドンとLAで行われたということだろう。「Birthday」を初めて聴いたときに思っていた「今までと音がなんか違う」は「turn over?」で「いやめちゃくちゃ違うやん」に変わり、そしてこの『SOUNDTRACKS』の全貌を目に(耳に)したとき、これまでの疑問すべてが腑に落ちた気がした。16チャンネルのアナログシステムを使ったテープレコーディングによる本作、めちゃくちゃ音が良い。前作『重力と呼吸』から顕著になった「音そのもので魅せる」的なミスチルの作品づくりに本作ではより磨きがかかり、今回においてはそれが「良い意味でのアナログ感」「温かさ」「生感」というようなベクトルを向いている。UK味のあるM1「DANCING SHOES」、めちゃくちゃジョン・レノンなM8「others」など、全体的に洋楽のエッセンスが強い本作の楽曲との相性もばっちりだ(もちろん楽曲そのものにも海外レコーディングの影響があるのだろう)。今回はアナログレコードのリリースもあったのだが(もちろん購入)、それとの相性も良かった。自分がドラマーだからなのかもしれないが、特に目立つのはドラムのサウンドの変化だ。バスドラム・スネア・ハイハットの音がかなりダイナミックになっていて、ふつうのエイトビートがめちゃくちゃ気持ち良い。「歌重視!!」だった今までのミスチルサウンドとは確実に一線を画したものになっている。
『重力と呼吸』に引き続き10曲45分とミスチルにしてはコンパクトなサイズ感だが、これもなんか絶妙に良い感じ。あと、これまでのミスチルではあまり起こらなかった「シングル曲やリード曲をアルバムの中で聴くと違うふうに聴こえる」感じが今までで一番強く感じられるのも良い。これまでのどのアルバムとも違う、新しい、でも人懐っこさのある名盤。全曲好き。
第3位 (邦楽)
くるり『thaw』
第3位はくるりの未発表音源集『thaw』。形態としてはコンピレーションアルバムになるのでランキングに入れるか迷ったが、2020年にこのアルバムを見過ごすわけにはいかないという思いや、かなりの回数聴いたことを踏まえて3位にした。
このアルバムについては以前noteでも書いたのでサラッといく。未発表曲集ということもあり言ってしまえば「裏ベストのさらに裏ベスト」である。ゆえに当然かなりディープなくるりワールドが展開されているわけだが、逆にくるりの真髄(の一部)とも言えるような「実験的な要素」「綺麗なうた」「シンプルなバンドアンサンブル」がまっすぐに楽しめるアルバムになっていると思う。
収録されているのはかなり初期のものから最近のものまで幅広いそうだが、オリジナルアルバムで言うとするならば、個人的な感想だと『TEAM ROCK』『魂のゆくえ』あたりの印象が強い。聴けば聴くほど味が出まくるアルバムなので、今となっては全曲かなり好き。まあでもM1「心のなかの悪魔」が1番好きかな。
なにはともあれまず未発表の音源集でこのクオリティってなんだよ、どんだけ良い曲お蔵入りにしてんだよって感じ。やっぱりすごいぞ、くるり。
第2位 (邦楽)
ラブリーサマーちゃん『THE THIRD SUMMER OF LOVE』
そして第2位はラブリーサマーちゃんの3rd AL『THE THIRD SUMMER OF LOVE』。アルバムの出来はもちろん、めちゃくちゃ衝撃を受けたという点も加味して2位に置いた。
TwitterでM4「I Told You A Lie」がレコメンドされているのをたまたま聴き、「え、これやばくね?」となり一気にハマった。ハマったというとアレなのだが、このアルバム単体にかなりハマった。正直なところ彼女の過去のディスコグラフィはあまり追えていないので、今回その視点を持ち込んで話ができていない点はご了承を。
タイトルの「サード・サマー・オブ・ラブ」にも表れているように、1980,90年代のイギリスのロックが大きなコンセプトになっている(と思う)のが今作だ。一聴すればすぐにわかるのだが、オマージュ具合がハンパじゃない。アルバムタイトル、ジャケット、テンポ感、音色、コード進行、アレンジ、歌い方、何から何までUKロックだ。日本のバンド、the brilliant greenっぽいといえばそれまでなのかもしれないが、ブリグリより一層意図的にUKロックに寄せている感じがするし、なにより今作にはOasisなどの所謂「ブリットポップ」的なものだけでなく、それ以前のThe Stone RosesやPrimal Scream、初期のBlurなどに見られる「マッドチェスター」的な要素がしっかり入っていることに個人的には注目したい。M1「AH!」、M2「More Light」、M4「I Told You A Lie」など。本当にかっこいい。M11「ヒーローズをうたって」ではDavid Bowie「Heroes」がフィーチャーされているのはもちろん、曲はPrimal Screamの1st AL『Sonic Flower Groove』で聴けるようなバリバリのギター・ポップになっているのも嬉しい。恥ずかしながら最初は気付かなかったのだが、M10「どうしたいの?」のコード進行がThe Kinks「All Day and All of the Night」のあの有名なヤツまんまなのもニヤリとさせられるポイントだ。
と言っておいてなんなのだが、イギリスっぽさを基調としつつも、ギターなどについてはUSグランジ的なオルタナティブなファズサウンドもかなり幅を占めており、安直でアレなのだがNirvanaなんかが好きな人でも大満足の音になっていると思う。それと、どこまでいってもキャッチーな歌メロとキュートな歌声は健在なので、ロックフリーク以外も楽しく聴けるようになっているはずだ。
the brilliant greenやJUDY AND MARYが好きな人はもちろん、Oasis、Blur、The Stone Roses、Primal Scream、The Charlatans、The La's、RadioheadなどUKロックが少しでも好きな人は必聴のアルバム。レコードのリリースを予期できなかったため、こちらはCDを購入。
第1位 (邦楽)
サニーデイ・サービス『いいね!』
そして栄えある第1位は、サニーデイ・サービスの『いいね!』。聴いた回数、衝撃、好き度合、すべてひっくるめて堂々の1位。僕のSpotifyアプリによると、聴いた回数はリアルに1位だった。
このアルバムについてはディスクレビュー等でも再三書いたので今更書くこともあまりないが、改めて。世界がコロナ禍に突入せんとしていた3月、急遽リリースの報せが届いた。溌剌としたなんともいえないパワーのあるジャケットが印象的で、肝心の内容もそれに準ずる素晴らしいものだった。前作『the CITY』までで見せたラップやサンプリングの要素は一気に影を潜め、シンプルなバンドサウンドが前面に出た力強いアルバムになっている。よく晴れた春の日のドライブで聴きたくなるような、みずみずしくて爽やかな風を感じるアルバムだ。
いきなり始まる(聴けばわかる)イントロで一気にアルバムの世界に引き込まれるM1「心に雲を持つ少年」、「今夜でっかい車にぶつかって死んじゃおうかな」という歌い出しが印象的なM4「春の風」、一発録りにより"バンドマジック"とも言うべき魅力がこれでもかと詰められたM8「センチメンタル」あたりの楽曲は、パンクバンド顔負けの勢いとエネルギーに溢れている。他にも、「苺畑でつかまえて」的な春ソングのM2「OH!ブルーベリー」、1st AL『若者たち』を彷彿とさせるM3「僕らが光っていられない夜に」、王道で切ないコード進行がやはり胸にくるM7「コンビニのコーヒー」など、本当に名曲揃いだ。
キャリア20年以上のベテランバンドが放ったとは思えない若々しさに満ち満ちた傑作アルバム。僕がこの『いいね!』をここまで愛してしまうのはもともとがサニーデイのファンだからということも少なからずあるが、それにしても良い。良すぎる。個人的に特に思い入れが強くて好きだった『東京』『DANCE TO YOU』などの過去作と同じレベルで好きだ。このアルバムのお陰で、いろいろあった2020年もまあ悪くなかったなと思える。
ランク外、その他 (邦楽)
銀杏BOYZ『ねえみんな大好きだよ』
僕の青春、銀杏ボーイズの6年ぶりのアルバム。超待望だったけど、前作と前々作の間が9年ということを考えればまあ短い.........ことはないか。「アルバム序盤はハードコア→中/後半以降でミドルテンポでメロの立つ"エエ曲"連発→アルバムエンディング」という大まかな流れは『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』『DOOR』とだいたい同じなのかなと。でもM10「GOD SAVE THE わーるど」、M11「アレックス」あたりの感じは前作『光の中に立っていてね』で聴けた銀杏に近いものがある。アルバムの冒頭1、2曲目が鬼のノイズから始まるハードコアで、初めてこのアルバムを聴いたときはああ相変わらず銀杏だ、と思ったものだが、今回特に目立つのはM5「骨」~M8「いちごの唄 long long cake mix」のシングル曲が連続するタームのキャッチーさだ。これまででいう「BABY BABY」「夢で逢えたら」路線の楽曲がよりポップに、より歌謡っぽくなり、なんなら一部の過激な銀杏ファンには「こんなの銀杏じゃない」とでも言われてしまいそうなほど純粋に"良い曲"なのだ。なので実は今作が一番「入りやすい」アルバムなのではないかと思ったりもしている。The BeatlesやThe Stone Roses、Oasisなどの古き良きロックバンドへのオマージュがふんだんに込められているのも個人的には嬉しいポイント。やっぱりこの人ロック好きなんやなあと思う。
小山田壮平『TRAVELING LIFE』
これまた僕の青春だった元andymoriの小山田さんのソロアルバム。「旅」がテーマになっているという今作、派手さはないが、確かに時間や場所、人の流れを感じてじっくり聴ける名作だ。彼の作る作品にはどれも「小山田印」のようなものが押されていて、一度好きになったらどの曲も全部好きになってしまう感じがするのがすごい。メロディが良くて声が良いってやっぱり大事だなと改めて思わされた一枚。M1「HIGH WAY」がなんだかんだ一番好き。
松任谷由実『深海の街』
コロナ禍を反映して制作されたというユーミンの39thアルバム(枚数すご.....)。つい最近リリースされたばかりなのでこの位置だが、ここ最近かなり聴いている。長いキャリアを包括的に語れるほど近年のアルバムを聴きこめてはいないのが恥ずかしいが、なんとなく今回は力が入っているような気がする(気がする)。さすがユーミンなだけあって、一曲一曲がやっぱりむちゃくちゃ良い曲。アルバム終盤のM10「REBORN ~ 太陽よ止まって」からM11「Good! Morning」、M12「深海の街」に向かって、徐々にフュージョンやAORのテイストが強くなっていく流れが堪らない。2010年代に興ったリバイバルとかではなく、1980年代当時にシティ・ポップを「創った」ユーミン張本人がやるのだから、そりゃあ良いよ。特にアルバムのタイトルトラックにもなっている「深海の街」がめちゃくちゃカッコよくて好きだ。80年の名作アルバム『SURF & SNOW』のセルフオマージュか?と思わずにはいられないジャケットも素敵。
まとめ
個人的な感触としては、特に洋楽は「1位・2位とそれ以下」という感が強い。1位と2位はわりと即決だったが、3位以下はランク外を含めて結構悩んで順位を付けた。
ランク外に選んだ数に表れているように、リリースの充実度でいうと今年は洋楽のほうが高かったような気がする。特に上半期の邦楽はかなり新作のリリースが少なかったと思う。まあ、こういう一年だったので。
今回はアルバム単位の話だったが、曲単位で今年の個人的ベスト20曲を選んだプレイリストも作ったのでぜひチェックを。
にしてもこの年間ベストを考える作業楽しい。毎年末のお楽しみ。長い記事だったのに、ここまで読んでくれた人はありがとう。かなりの物好きだ。
あと毎年思うけど、他の人の2020年ベストみたいなのも知ってみたいな。
てなわけで、2020年ありがとう。みなさまよいお年を。
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