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カガヤの名盤探訪 #2 - Mr.Children『I♡U』


例のウイルスに無茶苦茶にされたまま迎えてしまった夏ではあるが、夏はやっぱり夏。

僕は聴く音楽が季節にガッツリ左右されてしまうタイプだ。
夏になるとやはりサザンオールスターズや山下達郎、NUMBER GIRLを聴いてどうしようもなく夏を感じたくなるし、冬が近づけば商業の匂いがプンプンする、"まさに"なクリスマスソングを聴いたりしてしまう。

また僕はMr.Childrenの大大大ファンであるが、Mr.Childrenの音楽をその「季節感」を意識したうえで再生することは少ない。
「この季節になったらこれを聴く」的な成分を僕はミスチルにはあまり求めていない。

しかしながらこの『I♡U』というアルバムに関していえば、僕はどうしても「夏」という季節を感じられずにはいられない。

このアルバムといえば、名作であり大問題作でもあるアルバム『深海』以来、それと並んで「問題作」「失敗作」といったコピーがついてしまっているアルバムだ。僕は「失敗」などとは全く思わないが...。
確かに、「I LOVE U(YOU)」の「LOVE」の部分がぐちゃぐちゃに潰れたトマトで表現されているジャケットにも現れているように、他の作品と比べると「とがっている」「荒い」「ロック」といった評価をされてもおかしくない内容ではある。

性急なドラムのビート(曲中ほぼずっと8分を刻んでいる!)とシリアスなストリングスのアレンジが印象的な「Worlds end」から始まり、次の「Monster」に続く。Mr.Childrenのアルバムに時々現れる、攻撃力の高い刺激的なナンバーだが、この曲が2曲目に配置されていることは今作が「問題作」といわれる要素の一つだろう。
他にも、大胆な内容の「隔たり」、屋外での一発録り?と思われる「Door」など、いつにない"エグみ"を感じさせる要素が多いアルバムになっている。


しかしその「エグみ」や「衝動感」のようなものと、「夏」という季節は親和性が良い。
「未来」「ランニングハイ」といったシングル曲においても、特徴的な乾いたサウンドや開けっ広げな歌詞はとても印象的で、どことなく夏っぽい。

未来」には、なんとなく夏という季節を感じてしまう「ヒッチハイク」という言葉も登場する。が、それ以前にポカリスエットのCMソングという時点で断トツの"夏"だ。ギター、スネアが少なくベースやピアノが目立つAメロからボーカルをダブらせたBメロに移り、ベル(?)の音で解放感を演出するサビまで、夏っぽさは全開である。

衝動的なサビが印象的な「ランニングハイ」も、硬いスネアの音やホーンのアレンジ、時折聴こえるシンセなども相まってやはり夏っぽい。「息絶えるまで駆けてみよう」「太陽が照りつけると」のような歌詞も、それを助長していると思う。

靴ひも」は、ミドルテンポに乗る涼しげなギターサウンドが気持ち良い。抑えていた感情がこぼれてしまうようなサビも切なく、夏だ。名曲。

跳べ」は、打ち込みのドラムビートといつになく能天気な歌詞が特徴的な曲だ。ミスチルには珍しいタイプの曲であるが、開放的なサウンドに雲一つない晴天の日の夏を感じる。

アルバムの最後を飾る「潜水」はミスチルの曲の中でも随一のローなテンションを誇る曲で、サウンド、歌詞ともにかなり内省的だ。ひとことでいうと「フィッシュマンズの『空中キャンプ』に入ってそう」な曲。打ち込みのビート、ギター、シンセがいわゆる"チルい"感じで曲が進み、サビでドラムが生に変わる。The Beatles「Hey Jude」を彷彿とさせるような壮大な大サビ(アウトロ?)を迎え、大団円のままにアルバムが終わる。ミスチルにはほとんどないといってもいい「ロー」な雰囲気に「そうだ 冷えたビールを飲もう」のような「ロー」な歌詞が、猛暑に浮かされ脳が溶けてしまうような気怠い夏を想起させる。そこから逃避し、冷房の効いた涼しい部屋に入った瞬間のチル・アウトも感じるだろう。


ミスチルにはあまり季節感を感じないと言ったが、個人的に、この『I♡U』は数少ない「ミスチルの季節モノ」アルバムだ。

晴天、ロードムービー、青春、チルまであるこのアルバムとともに、皆さんもこの夏を過ごしてみてはいかがだろうか。


これは名盤。



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