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私の筆記用具

私もいちおう物を書く人間なので、筆記用具に対するこだわりは持っています。ただそれは40代になってからのことでした(現在48歳です)。

30代までは、アイデアメモも、下書きも、清書も、校正も、ぜんぶWordのファイル内でやっていたから、筆記用具やノートに対するこだわりはほとんどなかったです。なにか書きたいことがあれば、そのへんに転がってるボールペンでそのへんの裏紙に書けばよかった。

しかし40歳になった頃から、長時間モニタを見つめていると疲れるようになり、なんとなく手書きの時間が増えていきました。

そうなるとだんだん文房具にこだわりが出てきます。最初のこだわりはタテ書きノートを使うことでした。

2013年:タテ書きノートを使い始める

私は左利きなので、ヨコ書きだと今書いたばかりの文章が手で隠れてしまうし、手が汚れます。若い頃は気にならなかったのですが、中年になると急に気になってきちゃって。タテ書きならこの問題が起きないので、手書きを始めてまもなくタテ書きが習慣になります。

あれこれ試行錯誤したすえ、ツバメノートのA5判、立太罫11行を愛用するようになりました。これが2013年、41歳のときです。これを2018年まで使い続けます。

2014~15年:万年筆と原稿用紙を使い始める

筆記用具は最初はぺんてるのゲルインクボールペンを使っていましたが、万年筆が欲しくなり、2014年にペリカンのスーベレーンM800、限定色の茶縞を購入、翌年には同じM800のボルドーを買います。茶縞のインクはブルーブラック(エーデルシュタインのタンザナイト)、ボルドーのほうは赤とか緑とかいろいろ入れ替えて使いました。

同じころ、ツバメノートと併用して原稿用紙を使うようになっていきました。これもいくつか試しましたが、けっきょく満寿屋のA4ルビなし(108番)に落ち着き、2018年まで愛用します。

2016~17年:万年筆からサインペンへ

3年くらい喜んでペリカンを使っていたのですが、ここでまた左利き問題が浮上します。左利きだと、引いて書くように設計されている万年筆のペン先を押すようにして書くので、しばしば紙に引っ掛かるのです。「ぬらぬら」と形容される万年筆独特のタッチが、10文字に1文字くらいしか味わえない。それがずっと不満でした。左利き用にカスタマイズするのもめんどくさいし・・・

2017年、『昭和ノスタルジー解体』の執筆が本格化したころだったと思います。テレビで林真理子さんがサインペンでキュッキュッと小気味のよい音をたてながら原稿を書いているのを見て「これだ!」と思い、林さんと同じ三菱リブというサインペンを大量に買ってきて使い始めました。原稿用紙もツバメノートも両方これにしました。

『昭和ノスタルジー解体』は満寿屋の108番に三菱リブで書いています。終盤は時間がなくなってきていきなりワープロで打ち始めることもありましたが、全12章のうち8章くらいまでは手書きだったはずです。ちなみにタテ書きのときのワープロは一太郎です。

2018年:ツバメノートからモレスキンへ

A5のツバメノートは1ページに書き込める量が少なくて、もう少したくさん書けるノートのほうがいいと思うようになってきました。でも大きいノートは運ぶのが面倒なので、同じA5で、好きなサイズの字を書ける無地がいいんじゃないかとひらめきます。

そこで、これまで手を出してこなかったモレスキンを使ってみることにしました。いくつか試した結果、ハードカバーの無地が自分にベストであるとの結論に。

ただしタテ書きだから右から左にめくっていく必要があり、最後のページからスタートして逆方向に書き進めていきます。

モレスキンにサインペンは合わないので、三菱ジェットストリーム三色ボールペン1.0ミリ太字を使うようになりました。1.0ミリの三色はこれしか知らないのですが、他にありますか?あったら試してみたいです。

モレスキンはこんな感じです。たくさん書きたいと言ったわりにスカスカですけど。

2019年:原稿用紙がA4からB4になる

『発掘!歴史に埋もれたテレビCM』を書くときに、原稿用紙をA4からB4にサイズアップしました。私は推敲が激しくて、行間や余白にやたらと書き込むので108番では狭いのです。そこで作家さんが使うもっともポピュラーなB4サイズに変更。ルビなしグレー罫(112番)を使っています。

2020年:シャーペンと200字詰原稿用紙の使用

原稿用紙用として3年間使ってきた三菱リブですが、筆圧が高めなのですぐかすれてしまうのが困りもの。かすれない文具も少し試そうと思い、まずは速記用0.9ミリ極太シャープペンシル、プラチナプレスマンを使い始めました。B4の大きなマスにはこのくらいの太さがよく合っていて、私は好きです。三菱リブを完全にやめたわけではなく、併用が続きました。

『失われゆく仕事の図鑑』の執筆にさいして、1本1200字のショートエッセイを何本も書くスタイルだったのでペラ(200字詰)を使ってみることにしました。ルビなしのグレー罫(102番)とセピア罫(105番)を両方使いましたが、グレーのほうが好きです。B4もグレーを使ってるので、基本的にグレー罫が好きなのでしょう。

2021年:ゲルインクボールペンの復活

プラチナプレスマンも三菱リブも満足しているのですが、ちょっと変化がほしいと思いはじめ、4月締切の某論文の原稿から久しぶりにゲルインクボールペンを使っています。三菱ユニボールシグノの太字です。こうしてみると三菱好きだな自分。サラサラとすごくいい感じ。

ボールペンには珍しくブルーブラックがあるのもいいですね。と言いつつ下の写真は青字ですが。

三菱リブよりちょっと字が細いので、400字詰よりも200字詰のほうがしっくりきます。今回の原稿はそんなに長編ではないので、まあペラでもいいかなということになりました。原稿がんばります。ひさしぶりの学術書です。

本の原稿は手書き、Webの原稿はワープロ

そんなわけで、40代になってからの筆記用具遍歴をご紹介してきました。ややこしすぎてぜんぜん頭に入らなかったかもしれませんが・・・

試行錯誤してたどり着いたのは、シンプルなひとつのルールでした。

紙の文章の原稿は紙に書く。モニタの文章の原稿はモニタに書く。

書籍など紙に印刷される文章は、紙の上で作文・校正した方がしっくりきます。逆にnoteのようにWebで読むものは原稿用紙で書くとうまくいかず、最初からモニタ上で作文・校正するとしっくりくる。

じっさいのところ、私は手書きとパソコンで句読点のクセや節の平均的な文字数などが違います。手書きのほうが文章がまろやかでシンプルです。

理由はたぶんふたつあって、ひとつは手書きの場合100字とか200字といった文字の量を手が感じ取って疲れるので、余計な言葉を書かないようになります。もうひとつは、原稿用紙は200字や400字で次の紙に行くので、1000字前とか2000字前とかを参照するのがたいへんで、複雑で跳び幅の大きな論理構成を避けるようになります。

それっていいことなの?と思われるかもしれません。そうなんです。これが気に入るかどうかは人それぞれです。私は手書きが持つこの性質が自分の文章の個性にハマっているので、とても気に入っています。

ただ、大きな話の流れを見失うと細部がおかしくなります。たとえば、このタイミングで「これが」と書けばグッとくるのに「これは」になってるとか、ここで「つまり」を入れたら流れがよくなるとか、そういうのは視野が広くないと分からなくて、原稿用紙だとなかなか見えてきません。

だから、書き終えたらすぐに完成形の印刷物と同じ組み方で一太郎に打ち込んで、見開き2ページでプリントアウトして校正します。つまり、作文も校正も紙の上でやるんですが、手書きなのは作文の段階まで。これが、今のところたどりついた私のベストなスタイルです。

で、ここが大事なんですが、手書きの文章がまろやかだとして、そのまろやかな文章のほうが紙媒体の発表物に向いていると思うんです。

なぜ?って言われると困ってしまうのですが、本を読むとなんとなく感じるんです。あ、これはワープロで書いた文章だなとか、これは手書きだなとか。

私も手書きっぽい文章が書きたくて、とてもステキだと思っています。それが私のこだわりです。