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オロナミンCの曲は「スマイル」でいいのか

最近、オロナミンCのCMにホフディランの「スマイル」という曲が使われています。1996年の曲です。とても懐かしい。と同時に、ちょっと複雑な気持ちになりました。

私は20代の頃、ホフディラン(ボブBobじゃなくてホフHofu、日本の男性2人組ミュージシャン)が好きで、アルバムをしょっちゅう聴いていました。彼らの作るメロディとアレンジがツボで、クセが強すぎるシン・ワタナベイビーの声も自分は嫌いではありませんでした。

でも、歌詞だけはどうしても共感できなかった。とくに肌が合わなかったのが彼らの女性に対する視線。やさしさを示しつつも、根本的なところで上から目線なのがしっくりこない。サウンドは本当に好きだけど、歌詞はなるべく頭に入れないようにしていました。

たとえば「マフラーをよろしく」という曲があります(→歌詞)。

恋人にマフラーを編んでほしい男性の歌で、「手抜きは許されないぜ」「君のウデじゃ無理かもね」「期待しないで待ってるよ」など、お願いしている側とは思えない辛らつな言葉を浴びせつつ、一方で「徹夜をしてまで作ってほしくはない」「カゼをひいてまで作ってほしくはない」と、無理してほしくないことを告げる。

私はこのエラそうなセリフの裏に、不器用でもありのままの君でいいんだよ、たとえ不格好なマフラーができあがっても、オレは大喜びでそれを巻くぜ、だって君が作ってくれたマフラーなんだぜ、というツンデレメッセージを感じました。

それは一見イイ話です。口の悪い男のせいいっぱいの愛情表現は、ほほえましくもあります。

でも、この歌詞から読みとれる恋人像がどうしても、この男と対等の存在には感じられなかったのです。自分だったら、たとえ冗談だろうがツンデレだろうが恋人にこんなことは言わない。やはり根本的なところで上から目線なんですよ。できないことをカワイイとみなすような価値観。それが自分に合わなかったんだと思います。

くわえて、好きな男のためにマフラーを編む女性という、「肉じゃがが上手な女性」に匹敵する古典的な価値観がなじめなかったのも、この曲に共感できなかった理由かもしれません。あえてのベタを狙っているとしてもなじめない。

そして(ここからが本題ですが)、同じような価値観を「スマイル」にも感じていました(→歌詞)。

オロナミンCのCMで使われていない箇所に次のような一節があります。

「いつでもスマイルしようね 深刻ぶった女はキレイじゃないから」

なんでそんな言い方をするのか。女性だって深刻な場面はいくらでもあるのに、それを「ぶった」とかニセモノみたいに言うのはどうなのか。じゃあ女はニコニコ笑ってりゃいいのかよ。と腹を立てたものです。

自分はバリバリ仕事をする芯の強い女性が好きなので、とにかく女性観が合わなくて。でもサウンド的には大好きだから何度も聴いちゃう。ホフディランと自分とはそんなねじれた関係でした。

で、オロナミンCのCMです。主演の森七菜さんの役柄はたぶん高校生で、生徒会長として初のスピーチを控えてセリフを必死に暗唱している。でも覚えきれなくて手の甲にびっしりメモを書き込んでいる。

ところが、流れる汗を手でぬぐっているうちにメモが消えてしまう。追い詰められた彼女はオロナミンCをグッと飲みほし、勢いで壇上へと駆けあがると、そこには全校生徒の無数の視線。

見たことのないその光景を見た瞬間、彼女は頭が真っ白になったような、しかし何かから解き放たれたような、腹をくくったような、スイッチが入ったような、なんともいえない複雑な、それでいて力強い表情を見せてCMは終わります。

これを深刻な状況と言わずしてなんと言うべきか。深刻「ぶって」なんかいない。ガチで深刻。

もし、この瞬間の彼女に「深刻ぶった女はキレイじゃないからスマイルしようよ」なんてアドバイスする人がいたら最悪です。彼女はスマイルで乗り切ろうなんて思っていない、真剣勝負を挑んで勝とうとしているのですから。そもそもCMの中で彼女はスマイルしてないし。

BGMはこの曲じゃない。

私はそう感じとりました。もっと大きなことを言えば、この曲は時代に合っていない。

最近のオロナミンCは同じ大塚製薬のポカリスエット、カロリーメイト、SOYJOYと同じく、若者向けのイメージに寄せてきています。清原果耶さんの前作もそうでした。

だからオロナミンCのCMは、イマドキでなければいけないと思うんです。主人公は若い女の子なんだから、ふつうに若い女の子が作った曲でいいのに。なんで24年前の男性2人組が「深刻ぶった女はキレイじゃない」と歌う曲を選んだのだろう。清原さんの「365歩のマーチ」はまったく違和感ありませんでしたが、今回はとても違和感でした。

もちろん、CMで使われているのは「深刻ぶった・・・」の箇所ではないので、そこを引っ張り出してきて批判するのは言いがかりだと思われるかもしれません。たしかにそうなんですが・・・

でも、既存の曲をCMソングに用いるときは、サビのフレーズだけじゃなくて曲全体の世界観を引用すべきだと私は考えます。この曲全体で描かれる女性像と、CMで描かれる女性像はマッチしていない。だからひとこと言いたかった。

森七菜さん、2年前から定期的に趣味アカウント(アイドル専用)のTLに情報が流れてきて、陰ながら応援していました。最近すっかりブレイクして私もうれしいです。最後の表情に役者としてのポテンシャルを見ました。BGMは納得できないけれど、CM全体の雰囲気は好きです。