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40年越しのレインドロップス

今年2月11日のnote「作業用BGM」に次のような文章を書きました。

懐かしいBGMといえば夜の天気予報も忘れることができません。
夜8時57分ごろからのTBSの天気予報を、小学生時代、夕食を食べ、だんらんを楽しみ、みんなでテレビを見て、さあ風呂入って寝ようかというタイミングでいつも見ていました。いや、9時57分だったかな?時間はあいまいですけれども。
YouTubeでそのBGMを見つけて37年ぶりくらいに聴いたら、あの頃の家庭の温かな雰囲気が鮮明によみがえってきました。音楽は本当にすごいですね。聴いていた当時の気持ちや、風景や、空気や、においや、温度や、あらゆるものを脳の奥底からまとめて連れてきます。

YouTubeで見つけたBGMはこれです。

この曲のタイトルを知りたいなあ・・・音源ほしいなあ・・・と漠然と思い続けて約40年。思うだけで、本気で探したことはありませんでした。

思い出の曲との邂逅

しかし先日、天気予報番組の歴史を調べていたとき、偶然にもこの曲のタイトルを見つけたのです。

書いてあったのはWikipediaでした。まさかそんなベタなところに答えがあったとは。マニアの人いつもありがとう。

この曲のタイトルは「そっとさよなら」と言います。

番組で使われていたのはインストゥルメンタルですが、もとは歌詞のある歌でした。歌っていたのは、天気予報を伝えていたご本人たちです。

「そっとさよなら」は、1979年にTBSの関東地方向け天気予報を担当していた3人、増田葉子さん、志摩のぶ子さん、鈴木葉子さんが、「レインドロップス」というユニットを組んでリリースした曲だったのです。

ヤフオクで未使用に近いレコードが出ていたので入手しました。

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左から、増田葉子さん、志摩のぶ子さん(上記の動画に出てくる人)、鈴木葉子さん。作曲はビリーバンバンの菅原進でした。

幼い日の遠くあいまいな記憶が、こんなに明確なかたちになって今、目の前に現れるなんて。感動しました。奇跡のようです。

B面はインストゥルメンタル。出だしの「ポ、ピ、ピ」以外は番組で使われているのと同一音源かな。

宇野昭さんとの再会

レコード盤が家に届き、手にした瞬間、ふたつ目の奇跡が起こりました。

プロデューサーの名前に「宇野昭」と書かれていたのです。まさかの宇野さん!宇野昭さん!

私はこの方に3度お会いしたことがあります。

宇野さんは1953年、日本で最初の民放テレビ局・日本テレビ放送網が開局したときの社員、つまり1期生です。2年後、新たに開局するラジオ東京テレビ(現在のTBS)に移り、長らく活躍されました。

私が宇野さんにお会いしたのは2002年、博士課程1年の時でした。日テレ1期生の同窓会グループ「テレビ原人会」というのがあって、ひょんなことからメンバーのひとりの池辺啓二さん(元・福岡放送副社長)と知り合いになり、池辺さんがテレビ史を研究している私のために臨時同窓会を開いてくださったのです。そこに宇野さんがいらっしゃいました。

同窓会の帰り際、池辺さん、宇野さんともうひとりの方から「こんど渋谷で飲もう」と誘われ、後日、渋谷の「天狗」で再会。みなさん生活のサイクルが早いので、開店直後の16時から飲み会スタート(笑)

そこで宇野さんから、長野にある僕の別荘に昔のテレビ資料があるから、こんど遊びに来なよと誘われ、2002年11月2~3日、滋野にある宇野さんの別荘を訪問しました。

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↑↑↑たくさんのお宝が眠っていた離れのプレハブ小屋

夜、お酒を飲みながら宇野さんのテレビヒストリーをうかがったのですが、そこで確かに天気予報の話をされていました。天気予報を情報番組として位置づけ、「洗濯指数」を開発したり、気温予報に初めて「前日との」プラスマイナスを導入したり(それまでは例年比だった)、いろんな改革をしたのだそうです。

お天気キャスターをレコードデビューさせるという斬新なプロジェクトを立ち上げたのも、宇野さんだったのですね。

ご健在なら95歳くらいだと思いますが、お元気でしょうか。不義理な私はそれ以来何の連絡もしなかったので、近況は分かりません。

「お天気お姉さん」の歴史

それにしてもなぜ、このようなユニットを組んで歌を出したのか。気になって関連する雑誌記事を読んでみました。

「冗談からコマ!?お天気姉さん歌手デビュー」
(週刊アサヒ芸能 1979年8月23日号)

なにが幸いするかわからないのが放送界。なんとも危なっかしくて聴いていられないといわれながら、そこがまた魅力というわけで、TBSテレビのお天気姉さんトリオが「歌手」として幸運のデビューをする。

TBSのお天気姉さんは増田葉子、志摩のぶ子、鈴木葉子の三人。1000人に1人の大変な競争率でえらばれ、ミニ番組『お天気メモ』を担当しているトリオだが、そのおしゃべりはお義理にも上手とはいえないというのが大方の評判である。もちろん、本職のアナウンサーとは比較できないが、それでも「ぎこちなくて聴きづらい」「聴いていてヒヤヒヤする。かわいそうな気がする」といった視聴者の声が多い。

ところが、世の中よくしたもので、そのしろうとっぽいぎこちなさとまじめさが買われてか、このトリオのファンもいる。CBSソニーに彼女たちのファンがいて、そのファン心理がこうじた(?)のか、三人に歌わせてみようというごく軽い話が飛び出し、これがホンモノになったしだい。

先日、フォーク調の歌を三人でレコーディング(題名未定、九月末発売予定)したが、結果のほどは「まあまあの歌いっぷり。顔もてきとうにかわいいし、お天気アナウンサーをやっているよりいいかもしれない」(音楽記者の話)とのこと。

なんか、失礼な記事だなあ・・・

「さわやかお天気娘トリオ」が歌手でデビュー!
(週刊女性 1979年9月18日号)

TBSのお天気娘トリオが歌手としてデビューする。
『明日の天気』『お天気メモ』で、さわやかな笑顔をふりまく増田葉子、志摩のぶ子、鈴木葉子の三人がそろって、グループ名は『レインドロップス』。CBSソニーから『そっとさよなら』でデビューすることになり、このほどレコーディング。

「まさか私たちがレコードを出すなんて」と信じられない様子の三人だったが、彼女らのファンのCBSソニーの社員から口説かれてしぶしぶOK。

「決まった以上は一生懸命やるだけ」と居直りぎみで録音。素人だけに予定を2時間オーバーして6時間で完了。三人ともノドがカラカラ。

番組の宇野プロデューサーは「歌はヘタかもしれないが、彼女らのさわやかさは印象に残るでしょう」と番組イメージのPRに期待をかけている。

(↓↓↓週刊明星 1979年9月23日号)

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圧倒的な男性社会だった当時のマスコミで、彼女たちがどういう立場にあったのかをうかがいしれる記事ですが、このさいそれはおいときましょう。ともかく、レコード会社のCBSソニーに彼女たちのファンがいて、その人から宇野さんに持ち込まれた企画というのが真相のようです。

お天気キャスターに局アナではない若手の女性を起用して、その初々しさが人気になるというのは、彼女たちが最初ではありません。

たとえばNHK「ニュースセンター9時」のお天気キャスターがそうでした。1976年、タレント志望の主婦・斉藤恵子さんを2代目お天気キャスターに起用したところ人気になり、3代目の若月純子さん(77年)と4代目の古川小夜子さん(78年)はそれぞれ20歳、21歳の新人女優、5代目の野田和美さん(79年)は早稲田大学を卒業したばかりの完全な素人でした。

このへんの話はいろいろと調べています。いま、紅茶キノコとか、ラッセルヨーヨーとか、クラウンライターライオンズとか、モスクワ五輪不参加とか、昭和50年代の忘れられた風景の断片を拾い集める作業をしていて、いずれ本にまとめるつもりです。

レインドロップスにも1章をさきたいと考えています。この話の続きは、その本を読んでいただくということで。

そんなマニアックな本をどこが出してくれるのか分かりませんが。