虎に翼が面白い、構造や技法についての巧みさについて

一年近く使用が開いちゃったんですが、やっぱり自身の創作物以外に関しての書き出しと言うか、アプトプットと言うか、明文化する場所をキープしておきたいのでここを使っていこうかなと思います。

ジャンル統一とか見世物としてもエンターテイメント性の担保はできないと思うので、あくまでも子畑というクリエイターが自分の脳内整理の場所としての側面が強いかとは思います。
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で、虎に翼が面白い。

朝ドラ虎に翼。

米津玄師がOPをうたってる事でも話題のこれ。
面白い。

いろいろな都合があって朝ドラはほぼ確実にチェックする生活環境にあるんですが、その中でも図抜けて面白いとすら感じているのが今回の虎に翼。
(わりとここ数回の朝ドラは外れが少ないんですけどね)

まぁ内容が面白いとかそういうところはもう当たり前なのですが、それ以外のところでも巧みだなぁと感じる部分が多々あり、それについてちょっとアウトプットがしたい。


●人間関係のリセットが少なく、登場人物それぞれの人生が並行的に描かれる。
朝ドラってだいたいが○○編みたいな形で一定スパンで人間関係が総入れ替えになることが多いんですが、虎に翼は確かに物語のステージは変わっていくんだけど、新しい登場人物と過去出てきた登場人物が交わるように話が進んでいくので、この人のドラマ上の役割は終了、といった事が起きにくいんですよね。
だいたいの過去の朝ドラは生活環境などが変わったタイミングで過去の人物はほとんど出てこなくなって、大きなイベントを行います~、みたいなときににぎやかしで再登場、みたいな感じが定型なんですが、虎に翼はシームレスに過去の登場人物がたびたび登場する。

法曹界っていう狭い世界が舞台というのを強みに変えている部分だとも思うんですが、定期的に近状が伝わるため主人公の人生のみならず登場人物それぞれの人生が並行的に描かれているように描写されるのが非常に巧みだなぁと思うんです。
もちろんそれは史実をもとにしている側面上、戦後法曹界の流れなどを大きくとらえやすい物であったり、歴史に興味を持つ部分でもかなり強く人の心をつかみます。
面白い。

●一週間と言うスパンに捕らわれない。
もう一つ過去の朝ドラと明確に異なる点が、物語の解決を1週間というスパンに押し込めないというところだと思います。だいたいの朝ドラは1週間(土日を除いた週5サイクル)というスパンに収まるように問題の発生からその解決を描く傾向にあるんですが、虎に翼は割とその定型から外れてくるんですよね。
もちろん定型通りそのスパン内で「解決」と言う形を得る物語もあるんですが、と言うか割とあるんですが、それと並行する形で多くの場合で複数の問題が発生していたり、重い問題は長いこと扱ったり、時に解決しなかったり、できないという着地を取ったり、そして「解決」を明示しないというあり方を提示する傾向があるのも好印象に感じる部分があります。

特に印象的だったのが母子の関係性問題。
主人公の女性比率が圧倒的に多い朝ドラではピックアップされやすい問題なんですが、今回は問題の発生からその問題が和らいでいくまで非常に時間をかけていったし、なんか出来事があって「解決」という感じじゃなくて、凄くゆっくり良好になっていったのが印象的。
(一応娘ちゃんのもう母に何でも言うことができる、という言葉が一つの解決とも見えるんですが、そこまでの過程が非常にゆっくりかつ、丁寧なのが良い)
なんか出来事があってコロッとお母さん大好きとなるんじゃなくて、ああもうこの二人なら大丈夫だろうなと自然と視聴者も周囲の登場人物も感じてそれを問題視もしなくなる、長期スパンの朝ドラをぶつ切りの小エピソード群にせず、全体で表現を行うシナリオがすごく見事で秀逸だと思う。

●重い話を重くし過ぎない
ここ辺りのバランスが非常に長けています。
朝ドラという性質上、視聴するタイミングも食事時や早朝、そういったことが多いです。
そこでガチに重い物を出されると正直きついんですよね。
苦手に感じる朝ドラも結構多いのはここ辺りにあったりします。
ただ虎に翼、そこ辺りが非常に巧妙。
演出やシナリオ、あとは音楽などあらゆる手段を用いて、重い場面を重くし過ぎないようにします。
ちょっと話重いかもだけど、この音楽流れてるなら事態は悪い方向には流れていないな、というメタ的な安心感を担保したりなど、演出面など含めて非常に触り心地が良いのが特徴です。

話題になった部分でも最たるものが父との死別シーンだったと思います。
死別シーンでここまで笑わせてくるシナリオってのも珍しかったと思いますし、やられたとすら感じます。
個人的に良かったのが母子の関係が悪化したシーン。正直なんだろう、主人公がちょっとヘマっちゃって詰められるシーンとか、共感性周知の類が発動してまともに見られないんですが、全体的なフォローとか、いろんな面でカバーされていてとにかく見やすかったんですよね。

一方で容赦しないのが戦争描写。
人間関係についてライトにカバーする一方で戦争についてはほぼ直球で投げ込んできます。
かなり後半に入ってきて、原爆訴訟、この問題が出てきたかと感じています。
勿論主題としてはあくまでも法曹界のお話なのですが、全体的に虎に翼は戦争を描きます。
ただ玉音放送とか、原爆投下とかそういうのを直接描くという感じよりは戦後の処理と人々の生活に、苦しみや、想いについて法と言う視点から描くという部分が強いです。
(そもそも玉音放送とか無く戦争が終わった朝ドラも比較的レアに思います)

●キャラ付けの妙
良く朝ドラではキャラ付けをするためのフレーズが出てきます。
それが流行語にもなることが多くNHK側もおそらくは狙ってそういうのを取り入れて話題作りにしているんでしょうね。
今回もいろいろ出てくるんですが、主人公の「はて」、星判事の「なるほど」、兄の「俺には解る」などなど
勿論それぞれが汎用性があり、良いキャラ付けをしているのは間違いありません。
ここでもう一歩虎に翼が踏み込んできたのが、キャラ付けの遺伝。
このキャラ付け子世代に遺伝するんですよね。(星判事はしてないっぽいですが)

これすごい好きなんです。
あ~だれだれの子だなぁ、なんか親に似てきたなぁ~ってキャラ付けで解るのちょっとアニメ的な演出だと思いますが、全体的にフィクション要素が少ないドラマ環境の中でちょっとだけキャラを立たせて、人物の成長を感じやすくさせ、解りやすくさせるこの手法。
良いとは思いませんか?

●なんで感動するんだろう
最後にこれはあくまでも個人的な話になるんですが、虎に翼はなんか感動するというか、なんというか人のなした偉業に触れてその素晴らしさに感動するというかそういう感じに近いです。
時々法とは何なのか、みたいな問答があり、その答えは多くの場合で明確な定義はされず人によりまちまち。
それを扱う側の人間にしても法とはそれほどに不明瞭なものに形を与えているもののように感じられます。

ドラマでは日本が法治国家として法が定められ、育っていく過程が描かれます。
そして権利や自由と言った人間が持ちうる重要でありながらも不定形で見えず、存在するかも曖昧なものを定義し、形としてそこに存在させた法と言う人類の発明の姿に感動した気がしています。


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