醸しだす

塾講師のアルバイトをしている。

その日は夕方から22時前までぶっ続けで授業をしてへとへとだった。そそくさと帰りの支度をし、私は足早に職場を去る。

早く帰って飯が食いたい、というわけではない。食事なんかよりももっと重要な用事が控えているのだ。

キングオブコントである。

年に一度のビッグなコント大会であり、お笑いファンでこの大会を見ていない者はいない。

その日はキングオブコントの決勝戦であり、19時から22時まで生中継でその模様が放送されていた。つまり私がアルバイトを終えて外に出た時間帯には、ちょうど優勝者の発表が行われているはずだ。バイトを終えた私は素早く帰宅し、録画していた決勝戦をその日のうちに見てしまおうと考えていた。

外に出ると幸い人が少なかった。しめた。しめたぞ。これなら、不意に誰かの会話が聞こえてきてネタバレをされる心配もない。

と、そこで3人組の若い男の集団がこっちの方にやってきた。たいしてお洒落な建物もないこの町でご機嫌にイキっているようだ。よくみると髪を染めているしダッボダボのパーカーを着ている。なんだその服。簡易テントか。簡易テントかて。

すれ違う瞬間、もし彼らがキングオブコントの内容を喋っていたらどうしよう。「いやまさかギースが1位通過とはねえ」とか「ジャルジャルがファイナルに進めないとはねえ」とか…これは絶対に回避しなければ。万が一のネタバレを避けるため、私はわざと何発か咳をした。「なんとなく菌をもってそう感」を醸しだすことで奴らと距離を取ろうとしたのだ。

作戦は成功したんだか失敗したんだかわからないがとりあえずネタバレされることはなかった。よしいいぞ。しかし立て続けに、向こうから太いおっさんが歩いてくる。なんでこんな時間に出歩いてんだよおっさん。家でおみかんでも食ってろ。家でおみかんでも食ってろて。

「滝音3位に食い込んだなあーはっはっは」…...などといったネタバレを避けるため、私はちょっとふらふらしながら歩いた。「近くをすれ違ったら激突しそう感」を醸しだすことでおっさんを寄せ付けまいとしたのだ。

作戦は功を奏したんだかよくわからないがとりあえずネタバレされることはなかった。でかした。しかし立て続けに、作業服を着て誰かと電話をしている髭の生えたダンディな男が出現した。なんだその髭は。unofficial髭男dismか。unofficial髭男dismかて。

un髭男がニッポンの社長・辻の恩師で、「おーようやったなー辻」という内容の電話をしていたらネタバレになってしまう。それを避けるため、私は歩道を飛び出し堂々と車道を歩いた。「距離感」を醸しだしたのだ。

作戦は危険すぎたのですぐにやめたがとりあえずネタバレされることはなかった。エクセレント。よし、ついに家が見えてきたぞ。とその瞬間、ラスボスが現れた。

GBMG(外国爆音迷惑車)である。

何かしらを大音量で流しながら道を走っている。どういう意図なんだよテメエコラ。肩甲骨やすりで磨いてやろうか。肩甲骨やすりで磨いてやろうかて。

大音量で流れているのがキングオブコントの結果発表だったらどうしよう。ネタバレを避けるため私はムスッとした顔をすることにした。「音大きくて嫌だなあ感」を醸しだしたのである。

しかしGBMGは音を止めるそぶりがない。「何と言われようと爆音をやめねえぜ感」を醸しだしてきたのだ。

たまらず私は「なんだとー?夜なんだから静かにしたらどうだ」感を醸しだしたのだが、向こうが「うるせえ俺の車なんだから俺の好きにさせろよ感」を醸しだしてきた。慌てて「窓くらいは閉めなさい感」を醸しだしたのだが時すでに遅く、「すぐ近くにまで車が迫ってきた感」が醸しだされた。


ふつうにダッシュして帰った。


流れてたの全然キングオブコントじゃなかった。


家に帰ってただいま感を醸しだしたら家族がおかえり感を醸しだしてきたので、手を洗った感を醸しだしつつキングオブコントを見る感を醸しだすことができた。


😊(←最後まで読んでくれてありがとう感を醸しだしている)

おしりんまるwwwww