見出し画像

多職種研究会報告-リカバリーストーリーを聴き、語り合うトーク会-

リカバリーストーリーを聴き、語り合う


2、3ヵ月に一回くらいで、対人援助職の研修会を開催しています。「心のケア多職種研究会Lemonade」という会を立ち上げ、医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、薬剤師、教員、就労支援施設職員、マッサージ師、心理職等々、多職種で集まって勉強を続けています。

2024年3月17日には、10年間引きこもりを経て、今は就労支援員として働いている希さん(仮名)のリカバリーストーリーを聴き、参加者皆で感想や自分の体験を話し合う時間を共有しました。その様子を少し振り返ってみようと思います。

リカバリーストーリー


リカバリーストーリーとは、リカバリー(回復)の体験談、病気からの立ち直りの体験談です。「回復した」という成功体験だけでなく、「これからがんばってみたい」とか、「今回復の途中です」という語りも含めて、リカバリーストーリーと考えられています。実際には、言葉で語る、絵や歌で表現する等、多様な表現があるようです。

希さんは小さい頃から自分の意見が言えなくて、周りに合わせることが多かったそうです。働き始めてから職場で辛い体験があり、心身ともに急に動けなくなってしまい、その後10年間引きこもり生活が続くこととなりました。この時はずっと寝てばかりだったそうです。死にたいと思う日々。布団の中で過ごす日々。食事や風呂などもままならない日々が続いたそうです。


95%自分を責める時期

「95%自分を責めて、5%で風呂に入ったりごはん食べたりしてたのだと思う」と希さんは語っていました。動けない状態でしたが、家族の支えがあり、何とか月に一回精神科に受診し薬を飲むようになりました。少しだけ動けるようになると、ゲームゲームゲームの日々。ネットで知り合った人が誘ってくれて、いやいやだけれど外へ出れるようになったのがきっかけで徐々に作業療法やデイケア、B型作業所、A型作業所と活動を拡げて、今は就労支援員として働くことができるようになったとのことでした。

人との対話で気づき安心する体験


人に意見を言えない希さんは、自分が動いて何か失敗をすることへの恐怖も強かったようです。そんな希さんがデイケアでマージャンに誘われ、牌を捨てるかすごく迷っていたら、「どれでもいいやん、死ぬわけじゃないし」と仲間から言われて、はっとしたと語っていました。「ああそうだ、自分は一つのミスで死ぬくらいに感じていた」と気づいたとのことでした。

希さんは、自分の意見を人に伝えることも、人に意見を尋ねることも、少しずつできるようになっていきました。主治医、作業所スタッフ、友だち、家族…、わからないことは尋ねて納得するまで聞くこともしてみたし、自分ではそうかな?とよくわからないことでもアドバイスを信じてやってみると良い結果が出ることもあったそうです。対話から考え学ぼうとする希さんの姿は、今回の研修での質疑応答でも随所で見られており、これが希さんの持ち味なのだと思いました。


ストーリーを語ることで得たもの


少しずつ人とのかかわりを拡げ、自分のことを話すようになる中で、「すごいね」「勇気をもらえた」と言われるようになって、自分では無駄だと思っていた今までの体験が無駄じゃないし、誰かの役に立てるかもしれないと思うようになったそうです。話を聴いてもらうことで、自分も癒されていくのを感じたともおっしゃっていました。これからも自分の体験を人に話したり、歌にしたりする活動を続けて、少しでも引きこもりで苦しむ人が減るようになったらいいなと願っていると話してくださいました。

ストーリーを聴くことで得たもの


参加者の皆様からは、「すごく辛い事も沢山あったと思います。でも諦めない信念や行動力、力強さが、沢山伝わってきました」「友人が一時期同じような感じだったので、色んな思いが、交錯しながら話を伺っていました。」「『変わりありません』とか『大丈夫です』じゃなく、心の声を聞き出せる雰囲気環境作りをしたいと思います」といった感想をいただきました。


リカバリーストーリーを語ってくださった希さん、参加していただいた皆様、ありがとうございました。

心のケア多職種研究会Lemonadeは、ご縁のある対人援助職の方々と繋がって学び合うセミクローズドの研究会です。今後の活動も時々報告させていただきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?