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第27話 パフェ

「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」
店員さんがにこやかにやって来て、大きなパフェをテーブルに置いた。かの有名な海賊冒険漫画みたいに「どどん!」って字が空目するくらいに大きい。どれくらい大きいかと言うと、パフェグラスのサイズがほぼ洗面器ってくらい大きい。それ一つでテーブルの天板が見えなくなるくらい大きい。そして、カラフル。つまり、存在感がすごい。
「わぁ!ありがとうございますー!」
わたしはきちんと店員さんにお礼を言った。

「わ、すっごい、デッカい!ね!」
「あー、うん」
向かいに座っている佐江子はさっさとスプーンを手にしている。
「え、佐江子もう食べちゃうの?」
「うん。え、食べないの?」
「いやいや。これは、撮らないとだよ!」
「撮る?」
「そうだよ!ちゃんと #ジャンボビッググレートレインボーウルトラスーパーハッピーラッキード級のギガメガどえらいごっついもさもさビッグサンダースプラッシュ三丁目パフェ …名前長ぇ…って付けないとだからちょっと待ってて」
わたしはスマホを取り出して、パフェの写真を撮った。
…難しいな。大きいだけじゃなくて、あちこちにトッピングされているフルーツやビスケット、チョコレートなどのお菓子たちが上手く一つの画角に収まってくれない。それに、キラキラ光り輝くクリームやシロップが眩しくなって色が飛んでしまう。
「あー、ちょっとお店の照明キツいな…」
前から、後ろから、360°まんべんなく撮ってみたけど盛れない。今度は上から撮ってみよう。
「わ!危なっ!クリーム着くとこだった!耐えたー」
「…ねぇ、もう食べていい?」
撮った写真を確認している最中に佐江子が口を挟んできた。
「まだ。ちょっと待って。ちゃんと映えるように撮って #カラフルででけぇパフェ って付けないとだから、まだダメ」
「そう…」
佐江子、食い意地張りすぎじゃん。
「あ、そうだ!このパフェこんなにデカいんだから、小顔効果すごいんじゃない?」
「あー、確かに」
「ちょ、佐江子、横に並んでみてよ」
佐江子はもたもたとパフェグラスの隣に並んだ。ヤバ…笑いが止まらない。
「ヤバいって!!全然変わんないじゃん!佐江子超いい勝負してる!」
わたしは佐江子とパフェの写真を何枚か撮って、
「ねえ、わたしも撮る!」
パフェと一緒に自撮りした。
「…あれ?ダメだ。わたしだとパフェが大きすぎてわたしが入んないー。佐江子、撮って」
「あ、うん」
わたしはパフェの少し後ろに回って一緒に撮った。
「ありがとー。あ、他の角度も撮りたいかも。佐江子、これ持ち上げて立ってくんない?」
「いいけど、早く食べないともう溶けてきてるよ」
「気のせい気のせい!ほら、持って!」
わたしは、360°ぐるり回るだけじゃなく、上から下から斜めから、いろんな角度でパフェを撮った。店の床に寝転んで真下から見上げるように撮ったのがなんかすごい、いい。
「あ、この角度すごくいい!」
「そ、そう?」
「うん!ここだと佐江子のあごがちょうど二重に見えるの」
「へー。あ、なんか、パフェ、落としそうだなー」
「は?落とす?食べられなくなったら佐江子、泣くっしょ?」
「…」
小さく舌打ちが聞こえたけど、たぶんお店のBGM。

「てかさ、このサイズ感だとさ、遠くからの引きで撮っても映えるんじゃない?」
「そろそろいい加減に食べた方がいいと思うけどな」
「ちょ、やってみる」
わたしはテーブルから離れて、映える角度を探した。一歩、もう一歩、もう一歩いけるかな…
ドンッ
後ろ歩きでパフェとの距離をとりながら絶妙なポジションを探すのに夢中になっていたせいで、他の人とぶつかってしまった。
「あ、すいません」
「いえ、こちらこそすいません…」
わたしはそそくさと自分のテーブルに戻った。
「ほら、他の人にぶつかったりしたらダメじゃん。気を付けないと」
「いや、あの人もわたしと同じこと考えてたっぽい」
「え?」
振り向くと、その人もさっきのわたしと同じように店の床に寝転がってパフェの写真を撮っていた。

「もういいよ、食べて。佐江子、存分にいきな?」
「うん。…え、食べないの?」
「わたし?食べない食べない!食べる訳ないじゃん、こんなカロリーおばけ」
「…え?」
「第一、原材料不安じゃない?何をどうやったらクリームが煌めくのよ。まじ、訳分かんない。これ食べる人、おかしいんじゃない?」
わたしは溶けかけのパフェを佐江子に譲って、撮った写真を確認した。
「さーて、加工して投稿しよっと」
あー、けっこういい感じに撮れてるな。あ、これ佐江子が撮ったわたしとパフェのツーショット…
「あーっ!ちょ、わたしの顔むくんでんじゃん!」
大口開けてる佐江子にスマホの画面を見せた。
「あぁ…」
「最悪。撮り直すから、もう一個食べてね」


<END>
2020年2月25日  U-3 GONG SHOW より

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