第17球 プロ野球選手の少年時代 捕手編

 皆さま、こんにちは。名古屋グリフォンズの捕手・戸山謙太(とやま けんた)です。野岡さんからの指名で今回のエッセイは僕が担当します。
 野岡さんが野球に対して、対抗心を抱いていたなんてすごく驚きました。めっちゃ速いストレートを投げていて、めっちゃ落ちるフォークも投げられて、こういう人が野球に選ばれた人、というのだろうなと思っていたので……。野岡さんとは先輩に薦められた歯医者さんで出会ったのがきっかけでお話するようになりました。野岡さん、歯並びもきれいなんですよね。

 さて、プロ野球選手の少年時代ということで、僕は現在捕手をしていますが、始まりは投手でした。なぜ捕手になったのか、いつから捕手なのか。そのあたりからお話していこうと思います。

 僕は小学校3年生のときに市内のチームに入り、野球を始めました。それまでも父や母とキャッチボール程度はしていたので、まったく野球を知らないというわけでありませんでした。
 それでも最初の頃は投げたり捕ったり打ったりの繰り返しで、このポジション! と、決められておらず、自由に練習していたという感じです。そのなかで、マウンドに立って投げることが増えていって、僕は投げる人をするのかな、と自分なりに解釈していました。特にこだわりのポジションもなく、練習も楽しいが一番で、つらいと思ったことは小学生のときはなかったですね。そこまで強いチームではなかったのも僕には合っていたのかもしれません。

 そんなある日、チームの監督さんから、「戸山、キャッチャーやってみないか」と声をかけられました。なんで? とは思いましたが、ポジションにこだわりがなかったので、すぐに「はい、やってみます」と答えました。まさかその日からずっとキャッチャーで居続けるとは思いもしませんでしたが。
 キャッチャーの印象は、身につける防具が重そう、でした。実際に初めてキャッチャー用具一式を身につけたときの感想も「重い」でした(苦笑)。こんなのつけて、しゃがんで立ち上がって走ったりしないといけないのかよーって。でもなぜか、その時点で嫌だ、とは思わなかったんですよね。防具ってちょっとカッコ良くないですか。マスクとか。そんなわけで、僕は小学5年生から捕手として野球をするようになりました。
 
 捕手になりたてのころは楽しかったですねー。なにが楽しかったって、練習すべてが楽しかったんですよ。今思うと、チームにキャッチャーが少なくて、僕がやめると言い出さないよう、監督さんが練習メニューをいろいろ工夫していてくれたのだろうなとわかります。そのおかげで僕はプロ野球選手になれたとも思っていますから。
 でも、楽しかったのは中学2年くらいまでかな。チームも変われば、いろいろなことが変わります。練習も厳しくなって、楽しいという気持ちがだんだんと小さくなっていってしまいました。高校のころはなんで俺、こんなつらいって思いながら野球してんだろ、って正直何度も思いました。つらいならやめるという選択肢もあったのに、どうしてか僕は野球部を辞めようとは思わなかったんですよね。練習が終わって、キャッチャー防具を洗うんですけど、その時間になると不思議とよし明日もまた頑張ろうって気持ちになれて、それで僕は野球をやめることなく続けられました。キャッチャーで良かったなって思いました。

 高校3年の夏、あと一つ勝てば初の甲子園というところで僕の学校は負けました。ラストバッターは僕でした。その日僕は4打席で4安打と当たりまくっていて、5-6の1点ビハインドで迎えた9回裏。二死満塁、みんながつないでくれてまわってきた5打席目でした。
 打ちたかった。すごく打ちたくて打ちたくて、どんなボールが来てもバットが出てしまいそうなくらいでした。結果は力みすぎての内野フライ。そうです、僕は本当にどんなボールが来てもバットが出てしまったんです。悔しいというより、俺はバカか、と。自分は今まで何年キャッチャーをやってきたのかと。もっと、冷静になって打席に立つべきだった。あのとき、僕が相手チームのキャッチャーだったら、今日当たりまくっているこのバッターに対してどう攻めるか、それを考えるべきだった。なのに、打ちたい気持ちばっかりあふれて、僕はただ打席に立っているだけだった。
 この悔いは野球を続けている限りずっと僕の中に残るだろう、でも、それでも僕はだからこそ野球を続けたいと思いました。そうして僕は大学を経てドラフト4位で名古屋グリフォンズに指名をいただきました。
 小学5年で捕手になったとき、まさか僕がプロ野球選手になるなんて、たぶん誰も想像していなかったと思います。僕自身、もちろん憧れはありましたけど、もしかしたら……と思えたのは大学時代にスカウトの方が来られてからです。そこでも絶対なれると約束されたわけではありません。ポジションだったり、チーム事情だったり、いろいろなタイミングが重なって、指名が来るのだと思います。
 プロへの道はどこで開かれるかは人それぞれです。高校1年から話題になる選手もいれば、社会人になってそこで初めて注目される人もいます。なので、今、野球ができていることへの感謝を忘れず、明日もあさっても野球を楽しんでください。そこにプロへの道が続いているかもしれないのですから。

 それでは、次回のエッセイもお楽しみに。
 名古屋グリフォンズの戸山謙太でした。


◇戸山謙太プロフィール◇
名古屋グリフォンズの捕手として今季50試合に出場。規定打席未満ながら、打率.302と打てる捕手として注目を浴び、また、盗塁阻止率も.380と強肩を発揮。来季は正捕手奪取をねらう。

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