第25球 兄弟でプロ野球選手 弟編

 皆さま、こんにちは。阪神ストークスの投手、白鳥 昭洋(しらとり あきひろ)です。糸山さんのご氏名で今回のエッセイは僕が担当します。糸山さんのクリスマスエッセイ、おもしろかったですね。これを書いているのはクリスマス前なので、あくまで予定ですが、今年は同期のメンツで集まって鍋パーティをしようと話しています。

 僕が書くエッセイテーマは「兄弟でプロ野球選手」です。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、僕は福岡ファルコンズの捕手・白鳥 洋一(よういち)の弟です。兄とは年が離れているのですが、僕が野球を始めたきっかけはやはり兄でした。
 物心ついたときには家にグラブやバットがあったので、自然とそれに触れ、見よう見まねで遊んでいました。兄がいつから本気でプロ野球選手を目指そうとしていたのかはその当時はわかりませんでしたが、僕にとっては昔も今も、“野球のできるカッコいい兄”です。それは僕がプロになった今でもそう思っています。
 兄はプロでは捕手をやっていますが、子供のころは捕手だけでなく内野をやったり外野をやったり、投手もしていました。お兄ちゃんはなんでもできてすごいと、弟の僕は尊敬しかなかったです。そんな感じで最初からすごすぎたので、僕の中に、兄に負けたくないとか、兄より上手くなりたいとか、兄をライバル視する気持ちは一切生まれませんでした。年が近かったらまた違ったのかもしれませんが、昔から今までケンカらしいケンカはしたことがないです。

 なんだか、僕のことではなく、兄のことばかり書いてしまっていますね。たまに受けるインタビューで兄のことをよく聞かれるので、この際ここで思っていることを話してしまおうかなという気持ちもあります。

 僕が投手をするようになったのは、兄がキャッチャー役を務めてくれたからです。よく「ナイスボール」と言ってくれたし、コントロールが乱れると問題点を指摘してくれたし、兄の構えたミットに思い通りの球を投げられることが僕の一番の喜びでした。
 兄が高校生になってからはあまり一緒にキャッチボールすることができなくなってしまったのですが、試合で見る兄はいつも真剣で、いいところで打つし、キャッチングも上手だし、チームで一番強いなと感じて、僕はそんな兄の弟で良かったなと誇らしい気持ちでした。

 なので、兄がプロ野球選手になるのは当然のことだと弟としても確信していました。兄は高卒でプロ入りし、そのころ僕はまだ小学生でしたが学校では僕がドラフト指名されたみたいにあちこちからおめでとうと声をかけられました。僕もすごくうれしかったので、ありがとうなんて返していましたが、そのなかで、昭洋くんも頑張らないとねと言われたことがあって、頑張るってなにを? と、考えてしまいました。
 え、もしかして、僕もプロ野球選手になるってこと? え、まさか、そんななれるわけないよ! お兄ちゃんみたいにすごかったらなれるだろうけど……と、当時の僕はそう思っていました。

 でも、憧れがあったのは事実で、そのころからプロ野球選手というものをおぼろげな夢ではなく、現実のものとして考えるようになりました。でも、考えれば考えるほど、僕には無理だ、プロになりたいなんて言ったら笑われる。僕は野球を続けていましたが、プロになるためというより、野球が一番していて楽しかったから、という理由のほうがまだ大きかったです。

 兄は、プロ入り1年目の終わりに一軍デビューしました。その日の試合は僕も家族と一緒に見に行きました。カッコいい兄はやっぱりプロになってもカッコよくて、それからの兄の活躍は、僕がここに書くまでもないですよね。

 兄のことをカッコいいとしか言っていない僕が、なぜプロ野球選手になれたのか、それは、兄のおかげだと思っています。兄が僕の投げる球を受けてくれたから。だから僕はプロになれたと思っています。
 僕がまだプロ野球選手になるなんて意識の隅にもなかったころに、かけてくれた言葉が僕の心の土台になっていて、どんなときも耐えられました。

 兄とはリーグが違うこともあって、まだ公式戦での対戦はありませんが、いつか、近い将来、一軍の舞台で対戦したいです。そのときはきっちり抑えます。カッコいい兄を抑えて、僕も少しはカッコいいところを見せたいなと思っています。弟なので、兄の弱点は他の人より少しは知っています。

 それでも、兄のことは小さな頃からずっと尊敬しています。それはプロになった今でも変わりません。ライバル心を持つべきなのかもしれませんが、僕にとってはそれは必要な心ではないと思っています。だからといって、打たれてもいいということではないです。どう表現すればいいのか、上手い言葉が見つからないのですが、兄はすごいんだぞと、いつでも胸を張って自慢できる。それだけはこれからもずっと変わらないと思います。
 なんだか、兄のことがすごく好きな弟の長い独り言みたいなエッセイになってしまったような気がします。兄弟の数だけ兄弟の形があると思うので、僕のような弟がいいのか悪いのかはわかりませんが、一つの形として、これからも温かく見守っていただければと思います。

 それでは、次回のエッセイもお楽しみに。
 阪神ストークスの白鳥昭洋でした。


◇白鳥昭洋プロフィール◇
阪神ストークスの投手として今季30試合に登板。2勝1敗、防御率3.01と、高卒2年目ながら貴重な中継ぎ左腕としてブルペンを支えた。来季は今季の倍となる60試合登板を目標に掲げる。

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