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【創作大賞2024 ファンタジー小説部門】 奏太とコインの物語 第3話『奏太vsアオイ』


第3話 奏太vsアオイ

 
奏太とアオイは、ゆっくりと薄暗い部屋の中に入っていった。ひんやりとした空気が漂い、古びた石畳が敷き詰められていた。壁には奇妙な模様が刻まれ、不気味な雰囲気を醸し出している。

「ここにコインがあるの?」
奏太は警戒しながら一歩を踏み入れた。アオイもまた、緊張した面持ちで辺りを見渡している。その瞬間、部屋の奥から不気味な声が響き渡った。
「よくぞここまで来たな!」
声の主は、黒いローブを纏った男たちだった。
「お前らか!何度もこの私を襲ったのは!」
アオイは男たちに叫んだ。今まで僕に接していたアオイとは全く別人のように力強かった。
「フン!だったら何だ!」
彼らの目は不気味に輝き、手には鋭い剣が握られている。

「アオイ!気をつけろ!」
奏太はアオイの前に立ちはだかり、男たちの攻撃をかわした。
「お前たちのようなガキに、コインは渡さん!」
不気味な笑みを浮かべながら剣を構える男たちは、奏太とアオイに襲いかかった。

 アオイは素早い動きで男たちを翻弄し、隙を見て攻撃を仕掛けた。奏太も男たちの攻撃をかわしながら反撃を試みるが、徐々に奏太とアオイは追い詰められていった。
「このままでは、やられてしまう!」男たちの方が人数が多い。奏太とアオイは絶体絶命のピンチに陥った。奏太は攻撃を仕掛けるが、男たちは剣を振り回しながらこちらに向かってくる。その時アオイが叫んだ。
「奏太!こっち!」
アオイは奏太の手を引いて、不気味な模様のある壁のそばへ連れて行った。よく見るとそれは、この建物の入り口に描かれていた紋章と同じ模様だった。
「いい?この模様に手を置いて!さっき入ってきた時と同じように!」
アオイはそう言うと、奏太の手を掴んで壁に押し当て、アオイも同じように壁に手を当てた。

 男たちは追いかけてくる。焦る奏太に向かって「大丈夫!そのまま手を離さないで!」と、アオイは静かに言った。すると男たちが目の前に来た時、壁の模様が光り輝き始め、奏太は不思議な力が湧き上がってくるのを感じた。

「これは…」

アオイは「行くよ!」と言ってその手を壁から離した。突然壁から眩しい光が放たれ二人の体が宙に浮いた。奏太は何が起きているのか分からないままアオイについていった。
「なんだ、これは!」 
男たちは突然の出来事に驚き、目を丸くしてその場に立ち止まった。次の瞬間、光は収束し二人の手にはそれぞれコインが握られていた。
「やった!」奏太は強くコインを握りしめると、アオイはコインを握っている僕の手を確認していた。

「貴様ら、よくも!」男たちは怒り狂い、二人に襲いかかろうとした。しかし、二人の手の中にあるコインが再び光り輝き、男たちを吹き飛ばした。
「うわあぁぁぁ!」
男たちは悲鳴を上げながら、奥の部屋へ消えていった。
「今だ!逃げろ!」
奏太は叫ぶと、アオイと一緒にその場所から走って逃げた。

 二人の手の中にはずっと欲しかったコインがある。
「やった…勝ったんだ」奏太は緊張から解放され、その場にへたり込んでいった。「これで未来に帰れる…」コインを握りしめ、大きく息を吐き出したその時

「そのコインはいただいた!」

 アオイは、奏太の手の中にあるコインを奪い取った。
「待って!それはオレのものだ!返せ!!」
慌ててアオイを追いかけるが、なかなか捕まえる事ができなかった。今まで一緒に戦ってきたというのに、何故なんだ。奏太はアオイが敵なのか味方なのかわからなくなっていた。とにかく、コインをアオイに渡すわけにはいかない。

 アオイの野望を叶えたら、歴史が変わってしまう。何としてもコインを2個渡すわけにはいかない。しかも、僕は母の意識を取り戻したいという願いがあるから、20年前この時代に来たというのに。
 奏太は、必死に追いかけた。さっき、男たちと戦っていた時に怪我をしたのか、破れたズボンの膝から血が流れていた。母のことを思うと、痛みよりもコインを奪い返すことに必死だった。

「待てー!」
静かな街並みに、叫びながら血だらけで走っている奏太と、追いかけられているアオイはどんな風に見えたのだろう。行き交う人は皆、振り返るようのに走る二人を見ていた。
「奏太!お願いだからこのコインは私にちょうだい!」アオイは振り向きもせず、必死に走って逃げていた。
「ダメだ!オレにもどうしても叶えたい願いがある。返してくれ!」奏太は膝の痛みを堪えながら追いかけた。

「私の願いは、私の先祖を救うことなの。このコインがあれば過去を変えられる。未来だって変えられるわ!」アオイは足を止め、その場で泣きながら訴えた。
「そんなことのために、歴史を変えるわけにはいかない。僕にもお母さんを助けたいという願いがあるんだ!」奏太も足を止め、アオイと数メートルの距離で対峙した。

二人の間には張り詰めた空気が漂っていた。
「奏太、お願い!このコインは私にちょうだい!先祖がどれほど苦しめられたのかあなたにはわからないわ!コインを手にする方法を先祖から受け継いできた私だからこそ、あの時このコインを手にする事ができたのよ!」
 確かにあの時、入り口の紋章に二人の手を当てることで入口が開き、さらにピンチの時壁に描かれていた紋章に手をあてることでコインを手にする事ができた。

 僕は母のため、アオイもまた先祖の平和のため、とぢらも愛する家族のためにこのコインの力が欲しいのだ。
「アオイの気持ちもわかる。しかし、歴史を変えさせるわけにはいかない。そのために苦しむ人も出てくるはずだ。アオイは自分さえ良ければそれでいいのか?」
「何を言っているの。私たち先祖はずっと苦しめられてきたわ。ずっと、ずっと…」アオイはその場に座り込み泣きじゃくった。

 奏太はゆっくりとアオイに近づいた。
「お願いだ。僕のコインを返してほしい。ひとつはアオイのもの。しかしもうひとつは僕のコインだ。」
「コインの力は2つが揃っていないと願いが叶わない。ひとつだけ持っていても意味ないわ。それは奏太も同じよ」

 奏太は未来に戻れば、母のコインがあることは黙っていた。母を助けたいとは言ったが未来から来たとは言っていない。何としてもアオイからコインを取り戻さなければ。奏太はアオイからコインを奪い取ろうとした。アオイは驚き、咄嗟に身をかわしたものの地面に転倒してしまい、その隙にアオイの手からコインを一つ奪い取った。

 「やった!取り返した!」

 奏太は安堵と嬉しさで勝利の笑みをアオイに向けると、しっかりコインを握りしめその場から走り去った。
「待って!奏太!」アオイは諦めずに追いかけてきたが、奏太との距離はどんどん離れていった。 
「奏太!お願い返して!」アオイの泣き叫ぶ声だけが聞こえるが、振り向くことなく走っていった。

 奏太の願いはたった一つ。
母の意識を取り戻すこと。
「お母さん、必ず助けるから」
奏太は心の中で誓い、夜の街を走り続けた。

 アオイが追いかけてこないことを確認すると、奏太は改めてコインを眺めていた。洋館の入り口の紋章、薄暗い部屋に描かれていた同じ紋章、そしてこのコインに描かれているのもまた同じ紋章。その不思議なパワーの謎をますます知りたいと思っていた。

 しばらく歩いていると、道端から声をかけてきた人がいた。占いをしている年配の女性だった。歩道の脇に『占い』と書いてある看板の前で座っていた。

「お兄さん、何かあったのかな」

 笑顔で話しかけられたが、本当のことを話すわけにはいかない。
「僕、お金持ってないので」そう言ってその場を離れようとした時、「お金はいらないよ」と占い師は言った。無料の占い師なんているわけがない。騙されるな!そう心で思いながら、振り返ることなく歩いて行った。

「奏太くんだね」

心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。
20年前は僕はまだ産まれていない。
なぜこの時代に僕の名前を知っているんだ?


第4話へ続く


#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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