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【創作大賞2024 ファンタジー小説部門】 奏太とコインの物語 第2話『星の涙』


第2話 星の涙


「ここが、20年前?」

 奏太はしばらく辺りを見渡し、20年前の街を彷徨っていた。
見慣れない風景と行き交う人々の服装、そして父が昔聴いていたと言う音楽。奏太はタイムスリップしたことを確信した。全てが奏太にとって新鮮で、同時に不安でもあった。すると、1台の車が猛スピードで奏太の方へ近づいてきた。

「危ない!」

間一髪で避けると、車の運転席から若い男性が降りてきた。
「大丈夫ですか?」
男性は心配そうに奏太を見ていたが、奏太は大丈夫だと言って急いでその場を立ち去った。ツインのコインの手がかりを探さなければ、と焦る気持ちで街を歩き始めた。しばらく歩いていると、古びた時計店が目に入った。ショーウインドウには、アンティークの時計がずらりと並んでいる。

「もしかしたら、ここで何か情報が得られるかもしれない」

奏太は時計店に入ると、カウンター越しに白髪の男性が座っていた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか」
男性は優しい笑顔で奏太を迎えた。
「あるコインを探しています。どんな願い事でも叶うと言われているコインについて何か知っていますか」
すると男性の顔が優しい笑顔から険しい顔に変わった。
「君は誰なんだい。なぜコインのことを知っている」
奏太は、母を助けるために未来から来たこと、期限が3日しかないことなどを話した。

 男性は怪訝そうな顔をしながら、奥の部屋へ入っていった。しばらくして、ある地図を持って戻ってきた。
「ここには二つのコインがあると言われている。そのコインは『星の涙』と呼ばれる神秘の石から作られていて、持つ者に無限の力を与えるそうだ。そのため一部の権力者たちがその力を求めて争奪戦を繰り返している。コインを手にすることはもちろん、無事に未来に帰れる保証はないぞ」

 奏太は、「星の涙」と呼ばれる神秘の石から作られたコインを絶対に手に入れて、未来へ帰ると決意した。時計店の男性にお礼を言うと、地図を手に急いでコインを探す旅に出た。

 時計店の男性はこの場所が何処なのか知らないと言っていた。時間がない。とにかく早く何か手がかりを見つけなければ。焦りと不安のなか歩き続けていると、先ほど猛スピードで走っていた男性の車を見つけた。近づいてみると、その男性は近くの店舗で買い物を済ませて車に戻ってくるところだった。

 「すみません。先ほどぶつかりそうになった者です」

奏太はそう声をかけると、
「あっ、大丈夫でしたか?怪我してない?」と、僕を心配してくれた。
「大丈夫です。この場所へ行きたいのですが、ここが何処なのか知っていたら教えてください」奏太はそう言って、時計店の男性からもらった地図を見せた。
「古い地図だなー。もしかしたらあの場所かもしれない」

奏太は驚いた。まさかこんなにも早くこの場所を知っている人に会えるとは思っていなかった。
「教えてください!」
自分でもびっくりするくらいの大声を出していた。男性はその声に驚きながらも、車で2時間以上かかる場所に今から連れて行ってくれると言ってくれた。

「さっきのお詫びだから気にしなくていい」
そう言うと奏太を助手席に乗せて、コインがあると言われている場所に向かった。
 男性は、奏太がなぜこの場所に行きたいのか、何処に住んでいるのかなどいろいろ聞いてきた。僕が未来から来たことがバレないように、車から流れる昔の曲を聴きながら適当に答えていた。この時代にスマホなんてまだなかったはず。僕の好きなアーティストのYOASOBIやAdoはまだいない。

 2時間がこんなにも長く感じたことは今までなかったかもしれない。男性は「多分この辺りだと思うけど」と車を止めた。僕はお礼を言って車から降りると、深く頭を下げた。

 地図と景色を見比べてみる。奏太には時間がなかった。コインがあると言われている場所をすぐに見つけなければならない。

「ここだ!」

 そこは街外れにある古い洋館だった。奏太は地図を手に洋館へ向かった。そこはすでに廃墟と化しており、人の気配はなかった。
「もうひとつのコインは、一体何処にあるんだ?」奏太は慎重に中に進んでいった。すると奥の壁に、一つの紋章が刻まれているのを発見した。

「この紋章は…」
奏太は紋章に見覚えがあった。それは、母が持っていたコインに刻まれていた紋章と同じだった。

 「誰だ!」

 後方から女性の声が聞こえた。名はアオイと言うらしい。奏太より少し年上に見える。彼女もまた、コインを探しにここまで辿り着いたようだ。
 アオイには野望があった。コインの力を使い、祖先の無念を晴らし、先祖が繁栄する未来を作り出そうとしていたのだ。アオイが変えたいと願う歴史は、先祖が敗北した合戦だった。彼女は合戦の直前に戻り、裏切り者の陰謀を阻止し、先祖たちが勝利を収める未来のためにここに来たという。

アオイの野望は、個人的な復讐心を超え、一族の未来をかけた壮大な計画だった。しかしそれは同時に、歴史の流れを大きく変え、多くの人々の運命を狂わせる可能性のある危険な賭けでもあった。アオイの悲しみや怒りを理解しつつも、奏太はアオイの計画を阻止し正しい歴史を守らなければいけないと思った。

 しかし、このコインを狙っているのは奏太とアオイだけではなかった。アオイは何度かこの場所に来ているが、その度にある集団に襲われたと言っていた。彼らはコインの持つ壮大な力を利用して、富や権力を手に入れ、世界を意のままに操る支配者となる事を夢見ているという。

奏太は、何としてでも20年後の未来へコインを持ち帰る必要があると決意した。

 気づくと外はもう真っ暗だ。一体今何時なんだろう。そういえばこの世界に来てから何も食べていない。時空を超えてこの20年前に来た時、奏太は何も持っていなかった。スマホを持っていたとしても、この時代では何の役にも立たないが。
 何も食べていないことをアオイに伝えると、近くのコンビニでおにぎりとお茶を買ってきてくれた。

 期限は3日間だ。今日はここで仮眠を取ろう。
奏太とアオイは、古い洋館の中の壁にもたれるように少し眠る事にした。

***

 かすかな明かりで目を覚ました。アオイはすでに起きていたようだ。目を覚ました僕に、菓子パンとペットボトルの午後の紅茶をくれた。
「コーヒーの方がよかった?」
「午後ティー好きです。ありがとうございます」

昨日アオイに出会った時は暗くてよく顔が見えなかったが、朝になって明るくなるとアオイの顔がよく見えた。何となく母に似ていた。母のことばかり考えていると、誰でも母に見えてくるのかと自分でもおかしくなって「ふふっ」と笑ってしまった。

「何なの。気持ち悪い」

アオイはそう言うと、長い髪を縛り直して、紋章のある壁に向かって歩き出した。奏太は急いでパンを食べ終えると、アオイのそばへ行った。

 「コインはこの中にきっとある」

 2人は同時に紋章のある壁に手を触れた。
すると、壁がゆっくりと開き薄暗い部屋が現れた。



第3話へ続く


#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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