黒塗りされた卒業アルバム
もう何年も前の話になるが、古本市の100円均一で、誰のものかわからない小学校の卒業アルバムを見つけたことがある。雑に処分された卒アルが本にまぎれて売られることは、古本市などでは稀にある。しかし、そのとき見つけたものは、およそ普通の卒アルではなかった。
まず、裏表紙にでっかいまんこマークがマジック書きされていて、中を見ると、大多数の児童や先生の顔が塗りつぶされていたり、バツ印がつけてあったり、股間にちんこが書き加えてあったり、「こいつバカ」と矢印で指し示されたりしていた。男子、女子問わずである。
元の持ち主が在籍していたと思われるクラスについては特に酷く、積年の恨みを晴らすかのように、一人残らず顔も体もグチャグチャに落書きされていた。
ひと目でわかる、いじめられっ子の卒業アルバムだった。
卒アルに書き込まれるものといえば、友達からのメッセージしか見たことのない自分にとって、それは異次元のインパクトを放っていた。迷わず買って帰り、以後、時々引っぱり出しては眺めていたのだった。
今年は新型コロナの影響で、急に学校生活が打ち切られ、卒業式がおこなわれないところもあった。子ども達の残念がる声がニュースで数多く紹介されていたが、ひそかに喜んでる子もいるんだろうな、などと考えていたら、急に例の卒アルの存在を思い出した。久しぶりに開いてみようと思い、本棚や積んである本の山を探してみたのだが、なぜかどこにもない。
いつのまにか処分してしまったのだろうか。記憶にはない。最後に見たのがいつだったかも定かではない。あんなすごい卒アルには二度とお目にかかれないだろう。とても残念に思う。
あの卒アルの元の持ち主は、いまも生きているのだろうか。そもそも古書市場に流れてきた時点で、遺品整理だった可能性もある。記憶にある卒業年度から換算すると、生きていれば40代半ばのはずだ。
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