見出し画像

9-1 気管支喘息


気管支喘息

気管支喘息は、気管に慢性的に炎症を起こしており、それにより、気道過敏性の亢進や、気道リモデリング(気管の老化状態、気管の壁が固く・厚くなっている状態)を起こしている。ここに何らかの刺激が加わった時に、可逆的に気道が狭くなり、呼吸困難・咳・喘鳴の症状が発作的に出現している状態である。
引き金となる刺激には、感染症、アレルゲン、喫煙、肥満など、様々である。
発作の予防として、喘息増悪因子の回避/除去を行う。治療薬は、大きく分けると、発作治療薬長期管理薬がある。
発作治療薬(リリーバー)・・発作を楽にするために短期間使う
長期管理薬(コントローラー)・・長期管理のために継続的に使う

治療薬の分類

長期管理薬(コントローラー)

・吸入ステロイド薬
・ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)
・長時間作用性 β2 刺激薬(LABA)

発作治療薬(リリーバー)

・短時間作用型 β2 刺激薬(SABA)

吸入療法

気管支喘息治療のために、吸入療法は非常に重要である。吸入療法では、薬剤をエアゾール粒子やドライパウダーの形で、気道に直接吸入させるため、薬剤が局所に高濃度かつ急速に到達するため、局所のみで効果的に作用することが期待できる。その反面、全身循環血液中への移行はごくわずかであるため、全身的な副作用が少ない。
一方、吸入療法は、操作が困難であり、服薬アドヒアランスが低い面があるが、正しく使うと、全身性副作用も少なく、効果的であるため、吸入指導が重要である。
気管支に薬剤を届けるためには、薬剤の粒子径が3〜5μm だと到達すると言われており、正しく使うことが重要である。誤った方法で吸入すると、口内に大量の薬剤が残ったり、気道や肺胞まで到達しない、消化管に余分な薬剤が入ることになり、その結果、吸入ステロイドの場合、食道カンジダなどの感染症や口内炎などの副作用を引き起こす。

ネブライザー

ネブライザーは霧状にした薬液を吸入する。霧状にする方法に、ジェット式、メッシュ式、超音波式がある。
ジェット式は、患者が自宅で使用することもでき、汎用されている。圧縮空気で薬液を霧状にする方法である。
メッシュ式は、振動などによって、薬液をメッシュの穴から押し出して霧状にする方法で、機械がコンパクトで携帯性が良い。
超音波式は、超音波振動によって薬液を霧状にして噴出する。機器は大型であるがパワーが強いものが多く、長時間使用にも適している。

ネブライザーは吸入力が強くなくてもできるため、乳幼児や高齢者にも適している。

pMDI

加圧噴霧式定量吸入器
ガスの圧力で薬剤を噴射して吸入する方法である。ただし、ボンベを押して薬を噴射するタイミングと合わせて吸入する必要がある。吸入力はそこまで強くなくても使用可能である。

DPI

ドライパウダー定量吸入器
粉末の薬剤を自分で吸い込んで使う薬剤である。気管支の奥まで薬剤が届くように、大きく・強く吸う必要がある。
息を吐く→大きく・強く薬剤を吸う→息止め(5秒)→鼻から息を吐く
タイミングを合わせる必要はないが、強い吸入力が必要である。
デバイスには、いろんな種類があるので、デバイスに合わせて正しく使用する必要がある。

SMI

ソフトミスト定量吸入器
吸入器を操作すると、ゆっくり薬液が噴霧されるので、それを吸い込んで使う。

副腎皮質ステロイド薬

炎症を鎮める作用がある。吸入薬は長期管理薬として用いられ、中心的薬剤である。内服薬は、発作治療薬として使われる。

吸入ステロイド薬

副作用:
吸入ステロイド薬は、通常の用量では、全身移行はほとんどないため、全身性副作用はほとんどない。
一方、局所性副作用には注意が必要であり、咽頭痛、嗄声、咽喉等のカンジダ症などがある。
これを予防するため、スペーサーの使用や吸入後のうがいが必要になる。
スペーサーは、いったんスペーサーないに噴霧した後に吸入する。スペーサーを使用すると、噴霧と吸入のタイミングを合わせる必要がないことに加え、口に薬剤が残りにくいため、局所性副作用の低減が期待できる。
また、口内に残った薬剤を洗いながすため、吸入後のうがいが必要である。もし、うがいができない場合、食前に薬剤を吸入する、という対応が行われることもある。

β2 刺激薬

β2 刺激薬は、交感神経を刺激して、気管支平滑筋を弛緩させ、気管支拡張作用がある。脂溶性が高いほど、作用時間が長い。
短時間作用性β2刺激薬(SABA)は、発作治療薬として使われている。長時間作用性β2刺激薬(LABA)は長期管理薬として使われている。

現在ほど長期管理薬がなかった時は、発作時に、短時間作用性 β2 刺激薬の頓用とキサンチン系気管支拡張薬が多用されていた。現在では、長期管理薬、中でも、吸入型ステロイド薬が治療の主体であり、長期管理薬を継続しつつ、発作時や増悪因子のあるときに、上手に、短時間作用性 β2 刺激薬を併用することが大切である。

<短時間作用型β2刺激薬の使い方>
気管支喘息:
・リリーバー/レスキューユース・・喘鳴や咳嗽、息切れ、胸部圧迫感などの発作症状得を生じた時に頓用する
COPD:
・アシストユース・・労作時の息切れをきたす日常生活動作の前に、SABA の吸入を積極的に行う使用法

キサンチン系気管支拡張薬

キサンチン系気管支拡張剤は、気管支平滑筋に作用して、気管支を拡張させる作用がある。
テオフィリン徐放錠は、長期管理薬として、アミノフィリン注射液は発作治療薬として用いられている。
治療域が狭いため、TDM 対象薬剤である。

抗コリン薬

抗コリン薬は、副交感神経を遮断して、気管支平滑筋を弛緩させ、気管支拡張作用がある。
抗コリン薬も、短時間作用性と長時間作用性に分けられている。
しかし、短時間作用性であっても、最大効果が出るには時間がかかる。

配合剤

複数の成分を配合した吸入剤ができている。配合剤にすることで、吸入操作が簡略化可能であるため、アドヒアランスの向上が期待できる。
吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性 β2 刺激薬(LABA)2剤の配合剤や、ICS と LABA と長時間作用性抗コリン薬(LAMA)3剤の配合剤が開発されている。デバイスもさまざまあり、デバイスの操作性も選択の指標の一つになりうる。

抗アレルギー薬

アレルギー反応は、気管支喘息の増悪因子である。
ロイコトリエン受容体拮抗薬は、ロイコトリエンの気管支平滑筋収縮作用を抑制することで、気管支喘息の症状を改善する効果があり、長期管理薬として使われている。
また、難治性の気管支喘息に対して、アレルギー反応を抑制する分子標的薬が開発されている。
気管支喘息以外にも、重症の花粉症やアレルギー性蕁麻疹(適応は薬剤ごと)にも使われる。

まとめ

アドヒアランス向上のため、気管支喘息治療薬の説明をする時に、押さえておくべき、大切なポイントをまとめておきます。

長期管理薬と発作治療薬の2種類があります

喘息発作が起きた時だけ、発作治療薬を使って乗り切るのではありません。長期管理薬は、喘息症状がなくなっても継続することが重要です。
気管支喘息は気道が慢性炎症を起こしている状態です。炎症の治療を続けましょう。(継続により、気道リモデリングの予防、つまり、気道の老化の進行を抑制することができます)

吸入ステロイドを正しく使いましょう

吸入ステロイドは、気道の慢性炎症を鎮めるため、気管支喘息治療の中心的薬剤です。
患者様の中には、全身性副作用を心配されるかたもいらっしゃいます。免疫抑制薬の項目で説明したように、経口ステロイドを長期間継続した場合、全身性の副作用が起こるため、副作用対策をしながらステロイドを使う、ということをします。
ただし、吸収ステロイドの場合、薬を効かせたい場所(気管支)に吸入して届けるため、ピンポイントで効果を発揮します。全身移行はごくわずかであるため、全身性副作用は心配ありません。副作用を心配して治療を中断されることがないように、患者様が抱えている不安を拾い上げて支援しましょう。

吸入薬の使用方法が煩雑ですが・・・

いろんなデバイスが開発されているので、使いやすい薬剤を選択する、ということも可能になってきました。副作用対策としてのうがいも、できない場合は、個別に対応します。
患者様が正しく使えるように、わかりやすく説明し、正しく使えているか、随時、確認をしましょう。

応援やご意見がモチベーションになります。サポートを、勉強資金にして、さらなる情報発信に努めます。