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夏の思い出②天地にチョンと打つような

 月一アートを愉しんでいます。月一アートとは月に一回どこかの美術館へお出かけすること。美術館は学生時代にやたらと通っていました。僕にとってその瑞々しい気持ちを思い起こすための貴重な機会ともなっています。

 さて、巷でも話題となっていた、根津美術館の企画展『よめないけど、いいね!』。人心をくすぐるようなキャッチフレーズとともに、展示物の構成のよく練られた、心地のよい展覧会でした。まずは奈良時代から鎌倉時代の写経に目を凝らし、次に小野道風や藤原行成の古筆切にため息が洩れたかとおもえば禅僧の書にあっと息を呑み、さいごは本阿弥光悦や池大雅らのアーティストの書に心が躍りました。
 それでも、やっぱり、僕がガーンとなったのは良寛です。実物は凄いですね。(恥ずかしながら、僕は良寛を仙人のような爺さんと勝手なイメージをもってました・・・)。

 たとえば、<天地>という書。
 <天地>を一筆書きにつなげて書くという芸当にも驚いたのですが、一筆書きのバランスをとるため<、>のようなものをそこに打っているのです。この<、>には魂がふるえました。天と地を一本の線でつなぎ、そこへチョンと点を打つ。こんな人間で在りたいと思わせるような書でした。
 そして、もっと驚いたのは、楷書で書かれた良寛の詩稿です。これは楷書ではあるのですが、とうてい楷書には見えない書なのです。一本一本の線の太さ・濃さ・筆圧・癖が全てバラバラな、喩えるならば森で拾ってきた小枝を並べて字を成したような、書なのです。一字一字は全て知っている字であるのにも関わらず、全てが未知のような字に見える。展覧会のタイトルに準えば「よめるけど、いいね!」といいたいような書でした。

 子どもたちの夏休みが終わりに近づくころ、終わらない夏休みの宿題をもらったような企画展でした。

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