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百十五年前の小説から

  夏目漱石『三四郎』の冒頭部分。主人公の青年が上京すべく、九州から山陽線へと乗り込んだ。そうして爺さんの会話を青年が黙って聞いている。

 …いったい戦争はなんのためにするものだかわからない。あとで景気でもよくなればだが、大事な子は殺される、物価(しょしき)は高くなる。こんなばかげたものはない。世のいい時分に出かせぎなどというものはなかった。みんな戦争のおかげだ。

夏目漱石『三四郎』

 小説は1908年(明治41年)に発表された。ここで乗客の爺さんのいう戦争とは日露戦争のことである。百十五年前の小説だが、まったく同じような台詞は昨今の社会情勢からでも聞こえてきそうだ。

 ところで、物価をしょしき(諸色・諸式)と読ませる。漱石の江戸っ子気質を感じた。読書の愉しみはこんなところにあり。僕はムフフとなった。



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