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アースワーム

一日中雨の降った次の日が、あまり好きではないという話を友人としていた。

雨の降った次の日は目がしぱしぱするんだよね

あー、それ私もなる!

ほんとー、あたしだけかと思ってたよー

お菓子をつまみながら話は続く。

あとさ、雨の降った次の日ってさコンクリートの匂いがきつくない?

コンクリートの匂い?

それはちょっとわからないな、なんて思いながら聞きながら彼女が匂いに敏感なことを思い出していた。

ガソリンスタンドや温泉街等の匂いは嫌いらしく直ぐに顔をしかめていたなとか、秋になると金木犀や焼き芋屋の匂いに直ぐに反応して目をキラキラさせていたなとか。

そんな彼女はコンクリートの匂いが嫌いらしい、といこうとがあたしの中に新たに記録される。

コンクリートって言えばさ、雨の次の日ってミミズ多くない?

多い!

なんなんだろうねあれ、干からびてるのもいればまだ生きててうねうねしてるのもいるしさー

私、この間踏みそうになって悲鳴上げちゃったよ!

うわ、それは災難……

あたしも踏みそうになったことが何度もあるので、顔をしかめてしまう。

そもそもミミズたちは、なんで雨の日に土から這い出て来てコンクリートをのろのろと移動するのだろう。

しかも目的地に辿り着くことが出来ずに途中で干からびてたり、雨が上がってもまだ移動している。

まあ、ミミズに目的地があるのか知らないけど。

もうさー、途中で動けなくなること見越して出てきた場所からそんなに動かなければいいのにね

確かに!

……ミミズには目がないから、間違ってコンクリートに出てきちゃうんだよ

後ろから寝起きの低い声が聞こえて来て、あたしたちはビクッと体を弾ませた。

うわ、なに、居たの?

一応、僕の家でもあるんだからそんな顔しないでくれるかな

弟君、結構大きくなったねー

いや、先月も会ってますよね、そんなに成長してないと思うんですけど

髭の話じゃない?

友人の弟が別室から出てきて、ヘンテコな会話が交わされる。

あたしは背丈の話をしていたのだけど、友人は何故か生えてもいない髭の話だと思ったらしい。

ミミズはさ、新天地を求めて雨の日に移動するんだよ

例え、途中で干からびたり踏まれたり捕食されたりしても、ね

それだけ言うと弟君は、頭を掻きながら大きな欠伸をして洗面所へ消えていった。

新天地への移動かー、なんだか壮大なロマンだね

ミミズのロマンってなにそれ……あいつ適当な事言ってるだけだから信じちゃだめだよ

友人に釘を刺されるも、笑って誤魔化す。

新天地へ移動するミミズ、途中で亡くなる可能性があるにもかかわらず移動する。

それは、すごいチャレンジャーではないか。

しかも結構沢山のミミズがそれをしているというのは、ミミズっていうのはアクティブな生き物なのかもしれない。

雨の日に土から這い出て移動するミミズを想像してみる。

沢山のミミズが移動する。

ミミズの行進、か

ちょっと、弟に影響されないでよ!

友人から睨まれる。

もう一度笑って誤魔化そうとしたけれど、スティックチョコレートを口に突っ込まれてそれは叶わなかった。




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