小遣い春闘
今、我が家では年に一度のお小遣い会議が行われている。
父は無欲なもので去年と同じ金額でいいと言ってそれで落ち着いたのだが、その後がひどく長い話し合いの始まりであった。
毎年のことだけれど、小学三年の長女と中学一年の長男のお小遣い金額で揉めているところだ。
なんでお兄ちゃんの方が多いの?!
だからそれは俺の方が年上だからだって何回言えばわかるんだよ!
たった数年先に生まれたぐらいで偉そうにしないで!
小学生の頃の成績は私の方がいいんだから!
かれこれ三十分おきに同じ会話が繰り返されているのだけど、誰もこれを止めようとしない。
父も母も黙って見守っている。
バチバチと互いの言い分を怒鳴りあっているけれど、一向に話がまとまらない上に時間だけが無駄に過ぎていく。
いい加減にしろよ、これじゃ終わらないだろ?!
それはあたしに折れろって言ってるの?
絶対嫌だから!
たかが数年先に生まれたくらいで金額が違うなんて納得できないから!
日本には年功序列って言葉があるんだよっ!
はぁ?
それいつの時代の言葉ですかぁ~?!
不毛すぎるやりとりを流石に見かねた父が口を出す。
もう、二人とも同じ金額でいいんじゃないか?
これに対して二人の意見は同じだった。
長男曰く、どうして俺が妹と同じ金額なんだ、ありえない、絶対に無理。
長女曰く、あたしより成績も生活態度も悪いお兄ちゃんと同じ金額なんて絶対に無理。
進まない会議と、罵声。
いったい、いつこの不毛な時間は終わるんだろうかと、のんびりと欠伸をしながら思う。
同じ金額が嫌なら、お小遣い定額制じゃなくて必要な時に貰うっていうのに変える?
父が若干うんざりしながらそう言うと、それもそれで嫌だと二人が同時に言った。
金額面では対立している二人だけれど、自分の利益が減るかもしれないことに関しての考え方は全く同じだ。
というより、どちらも相手より多く貰わないと納得がいかない、そんなタイプなのだろう。
お前、いい加減諦めろよ!
数年先に生まれただけって言ってもな、先に生まれただけでも必要な費用っていうのは結構違うわけ。
ま、お前にはわかんねーと思うけど、と吐き捨てるように言うと長女の癇癪玉が破裂してひどい金切り声が家中に響き渡る。
僕はたまらず母のもとへ逃げ寄った。
その姿を見て母が一言。
一日百円、好きな時に貰いに来てちょうだい。
氷のように冷たい声に二人とも固まってしまった。
その様子を見て母は思い出したように付け足す。
もし一ヵ月貰うのを我慢すれば翌月には千円プラスして渡します。
二ヵ月我慢すれば二千円プラスします。
このプラス千円の原理は来年の二月まで有効です。
以上と言い放ち、我が家の会議は無事終了した。
あの二人がどのタイミングでお小遣いを貰いに行くのかはわからないけれど、母の提示した方法は銀行の利息より大きいなあと、僕は小さな頭で考える。
母は僕の頭を軽く何度か撫でると、食事の準備をするために台所へと消えていった。
その後ろ姿と、残された父と長男長女を見ながら僕はまた欠伸をする。
毎年毎年お小遣いを決めるだけなのに、どうしてこんなに大変なんだろうと耳を描きながら思う。
お小遣いなんてものは、犬の僕には全く関係のないことだった。
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