人間のふりをする。

食欲がない。
もう長いこと「これが食べたい」と思ったことがない。
けれど、食事をしないと人間は死んでしまうので、食事をとる。窮屈だが仕方がない。

多くの人間は、毎食違うものを食べるらしい。
何日も続けて牛丼だけを食べるとか、年がら年中鍋だけつつくとか、そういうことはしないらしい。
詳しいことは分からないが、栄養が偏るし、なにより飽きるんだそうだ。
だから人間に倣って、毎食同じものが続かないようにする。
豚肉と鶏肉を交互に使ってみたり(牛肉は高いから買わない。人間はこんなものを当たり前に買うなんて本当か?)、その時期その時期の安い野菜を交えたりすれば、それなりにいろんな種類の料理になる。

できあがった料理は、まあそれなりに食べられる。
人間は大さじや小さじを使って、レシピ通りに調味料を入れるからだ。おたまは大きい匙だが大さじではない。そのあたりをうまくかわせば、まあまずくはならない。
そうして作った料理を口に運ぶたびに、よしよし、無事に人間に化けられているな、と思う。


人間は同じ服を続けては着ない。
衛生的に問題があるし、他人から、このひといつも同じ服着てるな、と思われたくもないからだ。
だから、その日会う相手に応じて、前会ったときと同じ服じゃないかな、なんて気にして、服装を変えたりしているようだ。
私は人間のふりをして生きているが、人間ほど金銭を持っておらず、したがって服も靴も、そんなに数を持っていない。
だから人間のふりをするときは、服装には人間以上に気をつけている、つもりだ。
そうでなければ、人間でないことがばれてしまう。

人間の世は、人間でないものに、とてもきびしい。
だからきょうも、人間のような服を着て、人間がたくさんいる職場で働き、人間のように食事をとり、人間のように眠る。
くるしくてもまいにち、せっせと人間のふりをして生きる。

この先にはいったいなにがあるのだろう。
人間のふりをし続けたならば、そのうち人間になるのだろうか。
そもそも私は、人間になりたいのだろうか。


うーん、あんまりなりたくないなあ。
人間はみんな、すこしくるしそうだし。

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