死んだ親の置き土産

数日前、とある高校生に治療上やむなく、私の両親が小6の12月に別居した話をしなければならなくなりました。ところがそれを話し始めたとき、私はあるところで言葉に詰まってしまったのです。


僕の両親はね、僕が12歳の時別居したんだ。両親が一階の書斎で怒鳴り合っているのを僕は階段にしゃがんで聞いていた。お袋が「あなた!出ていきなさい!」と言って、オヤジが「わかった。出ていくよ」と言ったのを今でも・・・。


そこで私、声が詰まっちゃった。なんとその時の記憶が、フラッシュバックしたんです。12歳ですよ。今私は59だけど、8月で60。それでもその記憶は、話し始めたらフラッシュバックしちゃった。涙が出てきてしまって、しばらく話せず・・・。


まあ、どうにかその子の肩に手を置いて私はこう言いました。


これまで君は独りで耐えてきたんだ。さぞ辛かっただろう。今の君は、昔の俺だ。いいかい、これからは、君は独りじゃない。私がついている。児童相談所にもついてもらう。何かあったら、そして何か心配事があったら、いつでもここに来なさい。


ただし、今君はこれほど辛い目に遭っているからこそ分かるだろうが、今の君に親はまったく頼りにならない。親戚も誰も救ってくれない。だから、今君が頼りにするのは、君自身だ。自分自身こそが、自分の頼りだってことは、今まさに君が分かるだろう。私も付いている。児童相談所にも話は繋げた。だけどいいかい、自分を見失うんじゃないよ。自分をしっかり持つんだよ。今の君が最終的に頼れるのは、君自身なんだから。今の君は、それが分かるね?


彼は少し涙ぐんでいましたが、深く頷きました。


おい、死んじまった親父(おやじ)とお袋。あんた達は、とんでもない置き土産を残してくれたよ。あんた達の大騒ぎのせいで、こんな時に若い子を支える力が俺の身についたんだ。


まあ、感謝してやるからそう思え。

あゆみ野クリニック

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