安倍晋三と山本太郎

山本太郎が被災地の能登に乗り込んで、炊き出しのカレーを囲んで現地の人々の声を聴いたそうだ。それに私は何も悪いことは無いと思う。避難所って大抵体育館とかで、避難民は床に座り込んでいる。そこに行って突っ立って「何がお困りですか」と聞くより、炊き出しの確実に美味くは無いカレーを囲んで話を聞いた方が良いに決まっている。山本太郎は多少とも名前が知れた国会議員としてはいの一番に能登に乗り込み、これをやった。



悪いことは何も無い。しかし私は「ふうん、上手いなあ」と思った。



石巻で安倍晋三の悪口は禁句だ。何故なら、あの大震災の時自民党は野党だったが、安倍晋三は自腹でトラックに援助物資を満載して石巻に通った。正確に何回来たか知らないが、3,4回は来たらしい。



冷徹に言えば、安倍晋三のトラックが3,4回来たところで、たいした援助にはならなかっただろう。あのとき最大の援助物資を運んだのは米軍第七艦隊で、次は中国だった。しかしあのとき援助額の第2位が中国で、その次は韓国だったことは、ほとんどの日本人が知らないか、無視している。日頃嫌いな奴から援助されてもそれは記憶に残したく無いというのは人情だ。



安倍晋三が何故石巻で強烈な記憶を遺したかと言えば、震災直後から何回もトラックに援助物資を満載して本人が自ら石巻に乗り込んだからだ。あのときは民主党政権だったから、逆に民主党の首脳は東京を離れられなかった。実際の指揮判断は東京に集まる情報を基にするしか無かったから。あのとき菅直人首相は自らフクイチに乗り込んだが、一斉に批判された。首相が持ち場を投げ出して軽率だと言われた。安倍晋三はあのとき野党だったから、現地に駆けつけて感謝だけを受けた。



今回は立場が逆だ。実は岸田政権は自衛隊の揚陸艇を使い、能登の現地にクレーンなど重機その他を送り込んだ。この揚陸邸はホバークラフトなので、港が必要ない。海から浜に直接乗り入れて重機を運べる。おそらく進言したのは自衛隊の装備に詳しい誰かだろうが、それを使えと指示したのは岸田首相だろう。首相は自衛隊総司令官だから。なかなかの名案だが、それで岸田首相の株が上がるとは思えない。その決定は永田町の奥深くで行われ、誰も知らないから。



正直言って山本太郎が現地で炊き出しのカレーを囲んで被災者の声を聴いたからと言って、国政に何も反映はされない。自民党内閣が山本太郎の報告を聞いて何かするわけじゃ無い。



しかし被災後6日目で被災地に一番乗りして炊き出しカレーを囲みながら被災者の声を聴いた国会議員という演出は、実に上手い。東日本大震災の時の安倍晋三と同じくらい上手い。



だから私は別に山本太郎の行動を批判はしないが、そういう演出が上手い人の言動はあらかじめ4割割り引く。テレビコマーシャルを4,5割割り引くのと同じだ。演出が上手ければ上手いほど、受け手はその言動を割り引かないといけない。残念ながら石巻市民の間では安倍晋三は伝説となってしまっていて、石巻で安倍晋三の悪口は言えないというか、言っているのは私一人なんだが、私の山本太郎に対する受け止め方はそれと同じだ。

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