お笑いファンとは

大阪と東京の都市部では毎夜どこかで若手芸人のライブが開かれている。
大阪では吉本と松竹の常設の劇場があり、東京では有名芸能事務所の定期ライブが開かれていて、テレビで見るような芸人のネタを観る機会が普通にある。

これは演劇でも同じで、東京大阪は小劇場演劇が週末に何件も被っててスケジューリングに苦労し行けない劇団に申し訳なく思うファンさえいる。
しかし東京大阪から一歩出ればお笑いも演劇も存在さえ認知されていない世界だと言っても過言ではない。もちろん大都市部以外に存在は認められるが、ジャンルのファンにとってそれは東京、大阪の二大選択肢に加えるもので、その都市の中で選ぶものを迷うことはない。

とはいえ、劇場やライブ会場に行く人間は都市住民であってもはっきり言って多くない。極々狭いジャンルなのだ。一般人にとってのお笑いはバラエティと初笑い番組とM-1グランプリであり、大阪人でも週末の昼にテレビで見る新喜劇が全てなのだ。
演劇は劇団四季と宝塚歌劇の名が浮かぶだけで見たことはないもの。いまだに舞台役者の大仰な仕草がスタンダードだと思われている。

お笑いファンと自称する都市部以外の人間にとってのコアな知識は深夜のネタ番組とオンエアバトルとYouTubeで得られたもので、正直言って都市部のお笑いファンからすれば上澄みの知識でしかない。
でも、これはまさに生まれた土地による格差。はるか昔の治世者が年貢を得るために治水、土地の開墾開拓、陸路水路の完備、そして城下町で市場を開いたおかげで都市が発展した名残りと同様。
都市部住人が地方民の知識の浅さを笑うのは、都市の地の利に恵まれた年収からの税金が地方の財政の補填に使われることに不満を抱く都市住民の驕りに似て醜い。その収入/お笑いの現場体験は都市部に住んだからこその恩恵なのだから。けっして自らの努力の賜物ではない。地方にはそれが元から無いモノなのだ。

しかし深夜番組とオンエアバトルと動画の知識で古参ぶられるのは面白くない。
若手も若手の芸人さんがチケットを手売りしていた景色を知らないくせにとの思いはやはりある。
彼らの肉声を知らずしてYouTubeに知ったかぶりをコメントするなよと憤るのも。

まあ、ライブ会場に通ったことのない自称お笑い通は簡単に見分けられる。
「吉本芸人は〜」「吉本の芸風」と一括りにする奴。
何千人も在籍する芸人をひと言で語ること自体に無理がある。

テレビに出始めた時期を初期と語る奴。
大阪の芸人がメディアに登場するまでに十年以上掛かかるのは悲しいかな常識。

芸人の追っかけというのは推しの挫折や苦渋の時代をともに生きた自負がある。投票システムのライブで上位に入らない悔しさ、大型お笑い賞レースの予選通過を一段毎に祈る体験は現場にいないと味わえないものだから。

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