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小説現代2022年12月号の感想(書き下ろし短編)

こんにちは、こぐみ(@kogummy593)と申します。
キュウのぴろさん目当てで、遅ればせながら小説現代(ライト版)を購入して読みました。
紙版の方が読みやすいかもしれません。

ちなみに、各短編の感想にTREEというサイトの試し読みのリンクを貼り付けましたが、
TREEは小説現代の発売元である講談社さんが運営している文芸ニュースサイトです。
なかなか太っ腹な範囲まで出している…。

書き下ろし短編の感想


アブノーマル┃ラランド ニシダさん

コンビとしては順調のはずなのに。
笑いの種になっているはずなのに。
こんなにも、誰かにもっと理解されたい。

とある芸人・国見という人物の物語。
最初の方は、国見が置かれた状況の導入感があり、なんとなく話がぼんやりして見えていた。しかし、一つのキーワードによって急に焦点が合ったような感覚になり、そして目を背けたくなる、なんとも言えない気分の悪さを感じた。ただ、これは小説の内容がということではなく、物語の輪郭への焦点が合ってから、自分の中にある国見に似た部分をずっと同一視して、物語にのめり込んでしまったからだろう。
だんだんこちらを覗き込んでくるような内容だと感じた。

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みててよマシーン┃ゾフィー 上田航平さん

観客型ロボットを開発した博士と助手が、2050年代のエンターテイメント界で大活躍!?

導入からそそられた。これは絶対面白い話だとすぐに分かった。
テンポ良く話が進んでいく。こんなに心地よくていいのだろうか? と思った。
言葉遊びまで入る。なんなんだこれ、なんなんだ渾身の出来すぎる。本当に起こりうることかも知れない、どこかにこういうやりとりをしている人たちがいるかもしれない。絶対。
そして最後まで心地よすぎた。
ただ読んでほしい、楽しいから。
そしてただスッと、考えさせられればいい。

▽試し読み未掲載。買って読んで間違いない内容のため、ぜひ走り抜けて読み終えて欲しい。


巻き戻し┃四千頭身 石橋遼大さん

小学生以来、異性を怖れ、
恋愛を素直に楽しめなくなってしまった僕の、
これまでとこれから――。


純粋に小説として読んだ。
どう表現していいか分からない、という表現はよくないのだと思うが、どうしてもなにか心をぐちゃっとされる内容だった。
人にやさしくしたいと思って生きてきた人は、たぶんぐちゃっとなるし、主人公の慶一を取り巻く人々のようなタイプの人も、過去を掘り返されてぐちゃっとなるかもしれない。
とりあえず、最後は「お〜」と言ってしまった。読了感はとてもすっきりしていた。これは最後まで読んでこそ得られるもの。

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そそぐ┃吉住さん

ひとりのアイドルに勝手に振り回される、ふたりの人間の物語。
読後、鈍い衝撃が走る。

最近よく見かけるストーリー展開だ、
と思ったら、違った。
起承転結の承が翔なのではないかと思うほど違う。さらには転が転! 転!? 転転転!!! といった具合だ。「起翔転! 転!? 転転転!!! 、、結、、、」である。
だんだんと足を、下半身を、その体を、ずぶずぶと引き込まれる。人間ってこんな思考回路までいけるのか。ものすごくおぞましいものを読んでしまったと思った。これぞ吉住ワールド。
この物語について、「求められているものを書きました」と自身で言う凄みに、私は吉住さんを吉住先生と心の中で呼ぶことに決めたのであった。

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話は少し変わるが、これが単行本として出たら絶対にまた読みたいと思った。
タダイマトビラを読んだときの恐怖感をなぜか思い出したことは、思い過ごしだと思いたい。


イルオ┃キュウ ぴろさん

名前とは、自分という存在の座標。
それを呼ばれるのがいかに嬉しいことか、
僕たちは忘れていないだろうか。

勢いで研Q員(*)になったレベルでキュウにハマってしまったので、小説の語り口がぴろさんの声で再生される。これは、小説とも取れるが、「キュウとしてではない、ぴろさんのネタ」だと感じた。
研Q室(*)内コンテンツ「無い会話」の長編ともとれる。

研Q室
キュウのふたりが日々考えていることや、新しい漫才をつくる過程を覗ける「実験的サロン」。キュウの作品を最初に目撃できる場所。

最初に覚える違和感。それはキュウのネタから感じ取る、心地よいそれと同じだ。
言葉遊びで物語の像がゆらゆらとして、いったいどの方向へ連れて行かれるのかわくわくする。するとどうやら想定していたより深い場所まで導かれてしまった。不安を覚える。
しかし実は、それはただ全体を見れば、周りは広く、なおも広く、意外と自分がいた場所はそんなに深淵ではなかったのである。最後には拍子抜けのような、あたたかいような気持ちで、ほっとしてしまうのだった。

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新発売! コナファ ギャンワアイランド┃トム・ブラウン 布川ひろきさん

新作ゲームの開発を託された音中日の、
全く新しい擬音を探す大冒険!

私はこのnoteを書きながら思った。
タイトルが長いよ…!

そして読み始めて思った。
異色すぎるよ…!

…気を取り直して。
こまごまと異色な部分が出てくるが、ストーリー自体は「ありそう」な内容だ。
しかし注釈の多さや、口調がですますや言い切りがないまぜになっており、なんだか胸がザワザワする。主人公の心の中を覗いている感が増幅する。
そもそも、ギャンワって…なんだ…?
しまいには、「気になった人は明日にでも調べて」なんて…読者を置き去りにする気満々ではないか!?
読めば読むほど、布川さんという存在がそのまま煮出されて、ストレートでこちらに提供されているような感覚を覚える。
読めば読むほどブンブンと振り回される。それにかろうじてつかまり、振り落とされないようにする私。これが「ギャンワ」…。
暴走するコーヒーカップにお腹いっぱいの状態で乗せられるか、操縦桿を握りしめてなんとか抑えツッコミ続けるか…こればかりは読者次第だ。

▽試し読みはこちらから

本当になんとなく、なんとなーくなのだが、布川さんの作品のあとにぴろさんの作品を読むと、かなり収まりがいいんじゃないかな〜とは感じた。が、しかし、ぴろさんの作品のあとに読むと、心構えができた状態で読めるので、やっぱりこのままでいいのかもしれない。

お腹いっぱいだ。


追記

どうやら元になるゲームがあったようです。
教えてもらったので貼っておきます。

…いや、
「ありそう」な小説のストーリー展開で、
実はこの世に「ある」内容のゲームを基軸にした話で、
さらには小ネタもすべて本当に「ある」話なのに、

どうしてこんなにヘビーになるんだよ!


全体の感想

全部書いていると、それは巨大勢力に対しての書評になってしまうので、ざっくりとした感想だけ書いておくことにします。

買って損はない。


以上です。

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