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あの時、女の体であることをカミングアウトする事を選んで正解だった

逃亡者の様な生活」から抜け出した僕は、ただのフリーターから夢を追いかけるフリーターを装い性別適合手術をするために何個もバイトを掛け持ちしていた。

22歳の時、そのひとつにチェーン展開している店にオープニングスタッフとして入った。飲食店を開業するのにただ勉強になるかと思ったからだ。僕はただのフリーターじゃないんだと思い込む事で劣等感でイライラすることは減っていった。

ある時、店長からフルタイムで勤務しないか?と提案された。まずフルタイムで雇用され、良ければ正社員だ。すごく悩んだ。人間関係が出来上がっていた店長や料理長にいまさら「女性の体であることをカミングアウト」するのか?

その時期は「あれから20年」にあった様に、手術をするための倫理委員会が通った後だったから少し時間をもらい考える事にした。

辞めるか、カミングアウトか。

カミングアウトしても手術休みをもらえるのか?そもそも許される事なのか?性同一性障害を今更どうやって説明する?

もうこの頃は男での社会生活に慣れていて、関係ある人へのカミングアウトする機会がなく、どう話していいのかもわからなくなっていた。
けれど、店長や料理長との関係性を信じたのと、この先社員になれる可能性をかけてカミングアウトをした。もし拒絶されたら辞めて引っ越そうと覚悟をしたのだが、性同一性障害という言葉も世の中で聞かない時代に、真摯に受け止めてくれた。それから、事務手続き上は女だが、勤務は今まで通り男で働く事ができた。

店長は僕が手術に入る前に移動になり、料理長だけが僕の理解者で世話をしてくれた。
長期休みの理由、復帰後の仕事内容。いまでも覚えているが「心配するな!」の力強い言葉に甘えた。

僕はこの職場に4年ほどいた。その間に全摘出手術、翌年特例法が施行され戸籍の性別変更、その翌年形成手術を終わらせる事ができた。毎年何かが変わった。

これは料理長が助けてくれたおかげだ。誰にも言わず、僕の話しを真剣に聞いてくれ、僕が完全に終わるまで寄り添ってくれた。最後に僕が復職した後、料理長はさらに大きな所へ転職した。

このように僕はたまたま周りの人に恵まれてきた。今のように言葉も聞かない時代にだ。移行期はどうしても誰かに迷惑をかけてしまう。そんな時期に真剣に向き合ってくれる上司がいる事はとんでもなく心強いもんだ。


ちなみにこの料理長とはしっかり縁は続いている。今年の夏はどうしますか?🍺ともうそろそろ連絡してみよう。

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