第三回ボードゲーム感想:Coup~正直こそ最大の防御~

 『嘘をつくゲーム』は人狼に始まり、ごきぶりポーカー、Bluff、Not my Fault、薔薇と髑髏など、立派にボードゲームのジャンルを築いている。
 ゲームで他人を『暴く』という工程にハードルを感じていた僕は、その手のゲームをあまり経験できないまま大人になったのだけれど、その所為か、結構長い間「ブラフゲームは観察眼が勝敗に大きく影響を与える」と思っていた。
 だって、推理ものや刑事もので主人公はいとも簡単に相手の神経質な癖を見抜くものだから、堂々と嘘をカミングアウトするプレイヤーの不自然さを、ゲーマーが看破できないはずがないじゃないか。自分が嘘をつく時、それはまるで稚拙な演技に思えて、誰が見たってバレるって怯えてしまう。
 実際、この手のゲームを遊んでみると観察力がある人はいる。けれども、ゲームの勝敗には思っていたほど有利に働かないのではないかな、と最近になって認識を改めた。

 というのも、ゲームにおいて「嘘をつく」という行為には必ず意味がある。嘘をつくのはそれが有利になるからしているのであって、将棋において攻めるか守るかという戦略の選択と本質的には変わらない。人狼を引いた人間が役職を騙るのは「攻め」の戦略と言えるし、黙って村人に紛れて議論の手綱を引くのは「守り」だ。積極的に嘘をつく行為は場に開示されている情報を荒らすハイリスクハイリターンな行動なのである。
 一方で、相手の嘘を咎める行為もまた、リスクの高い行動である。どんなゲームも、守りの戦略(=正直に、静かに行動する)は恒常的な得をするようにできていて、嘘を突き崩そうとするプレイヤーは正直者の守りに阻まれるリスクを考えなければならない。
 つまり、「正直に動く」「嘘をついて不相応の利益を得る」「嘘を指摘する」「ボロが出るまで静観する」などの戦略は確率と期待値によって選ばれているから、いくら観察眼が鋭くても嘘を暴くのは簡単ではない、というのが最近の感想。
 いくら相手が挙動不審であろうとも、「指摘したとして、仮に本当だったら戦局がひっくり返ってしまうし、今は泳がせていても大事にならない」という意識が観察眼を鈍らせるようにできている。Eカードで利根川が一枚目に皇帝を出せなかったのと一緒。

 本作、『Coup(クー)』は嘘をつくタイミングと、それを指摘するタイミングが鍵を握る。虚言と摘発のリスクを左右に乗せた天秤が、ゲームの進行と共に揺らぐ様が楽しい。

・ゲーム概要
プレイ人数:3-6人
プレイ時間:10分程度

・簡単なルール
 
プレイヤーには二枚の役職カードとお金が配られ、役職カードがライフを兼ねる。
 プレイヤーは手番ごとに「お金を稼ぐ」「手札を伏せカードと交換する」「お金を払って相手を攻撃する」などの行動を行えるが、特定の役職を持っているプレイヤーにしかできない行動や、特定の役職によって妨害が可能な行動が存在する。『公爵カード』を持っている人が通常よりも多くのお金を稼いだり、『女伯カード』を持っている人が敵の攻撃を防御したりなど、固有の行動を駆使して相手のライフを削って(手札を捨てさせて)いき、最後まで生き残った人の勝利。
 但し、自分の手札について嘘をついても良い。実際には『公爵カード』が手札にないのに公爵にしか出来ない行動をプレイしてゲームを有利にすすめることも可能だ。
 もちろんブラフにはリスクが伴っており、誰かが嘘をついていると思ったらダウトを宣言することで相手の手札を監査できる。もし疑い通りに嘘をついていたら行動した人物の手札が一枚削られ、本当にカードを持っていた場合はダウトを宣言した人間が手札を捨てなければならない。
 嘘と本当を駆使しながらゲームを有利に進め、相手を出し抜き勝利をつかもう。

・このゲームのキモ
 正直と嘘のリスクバランスが面白い!
 ダウトゲームの常なのだが、このゲームも例に漏れず基本的にダウトのリスクが非常に高い。ダウトが通るとライバル一人の体力を五割削れるが、失敗すれば自分が瀕死になる。数いる相手のうち一人を攻撃できるのは当然嬉しいが、そのために自分の命を五割賭けるのはまったくもって割に合わない。
 この非対称性のために、多人数でプレイしていると大胆な嘘が面白いように通るのである。「絶対ウソじゃん」と思っても、「でも万が一……」という思惑が脳裏をかすめ、「誰か代わりに指摘してくんねえ?」という思いに変わり、嘘が咎められなくなる。そうして卓には嘘がはびこり、嘘をつきそびれた人間からジリ貧になるようにできているのだ。これが序盤戦。
 ところが、ゲームが進むと状況が変わる。行動を重ねたり脱落者が増えると開示される情報が増えるため、嘘がバレやすくなるのである。
 そこで、これまでリスキーだった「ダウトを通す」、あるいは裏をかいて「相手のダウトを潰す(本当のことを言う)」戦略の価値が上がる。このゲームはゲーム中に手札を入れ替える手段が限られており、自分が抱える情報にリセットをかけるのが難しい。そして、その数少ない方法の一つが相手のダウトを潰すことなのである。終盤になって正直戦略にシフトすることでダウトをかわし、手札を新調することは相手にとって大きな驚異になりうる。情報を更新できなかった相手を完全に詰ませることだって可能だ。
 つまり、このゲームは時系列に沿って「嘘をつくリスク・リターン曲線」と「嘘を指摘するリスク・リターン曲線」が、あたかも需要と供給の如く交差する。その展開を見据えて、でも時折運や恣意性も交えて行動するのがとても楽しい。裏をかいて出し抜いた時の爽快感といったらない。

・感想
 超オススメです。
(※僕はオススメだと思ったボードゲームしか勧めません)
 負ける時はあっさり負けるし、多人数ゲームにつきものの私情を挟んだ不公平なゲーム展開はあるものの、プレイ時間は10分程度だから退屈しないし外から見てるのも楽しい。
 何より相手を出し抜き、手軽にドーパミンがドパドパされるタイプのゲームなので、日常生活で正直に生きることを強いられている人には是非やってみて欲しい。

・ところで嘘をつくゲームと言えば
 有名なのはポーカーですよね。僕は殆どやったことないのですが。
 映画なんかで、ポーカーをやっている主人公がここ一番の大勝負でハッタリをかましたりするシーンは戦略的には当然悪手なのですが、それでもそんな一発逆転が起こることに納得してしまうロマンがあります。
 思うに、賭け事になるとゲーム内の期待値だけでは説明しきれない、精神力と観察眼の話に回帰するのでしょうね。
 野試合でお金を賭けることはご法度だけど、自分が持っている何かしら大事なものを失う約束を取り決めてこそ、この嘘という曖昧な要素を最大限楽しめる気がしてなりません、と結んでブラフゲームに関する所感とさせていただきます。

・BGA良いっすね
 
今回のCoupは、オンラインでボードゲームができるプラットフォーム、BGAことBoard Game Arenaにも収録されています(プレミア会員限定ですが)。
 中々外出して他人と遊ぶことが出来ない昨今、BGAで手軽にボードゲームが色々遊べるのは大変良い。初めて知ったゲームもあるので適宜紹介していきたいと思います。

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