【本】デイジー・クリストドゥールー『7つの神話との決別』:民主的で平等な社会を作るための事実学習
木曜日はお勧めの本を紹介しています。
今回は、デイジー・クリストドゥールー『7つの神話との決別』(東海大学出版部, 2019)を取り上げます。前回紹介した、Daniel T. Willingham『教師の勝算』(東洋館出版社, 2019)の主張に近い本です。
■要約
教育の進歩主義として位置づけられる以下の7つの神話には何ら新しさはない。
1 事実学習は理解を妨げる
2 教師主導の授業により生徒は受け身になる
3 21世紀は全てを根本的に変えてしまう
4 調べようと思えばいつでも調べられる
5 転移可能なスキルを教えるべきである
6 プロジェクトとアクティビティーが学びの最良の方法である
7 知識を教えることは洗脳である
これらの神話に振り回されるのではなく、認知心理学に基づいて効率的に事実と知識を教えることのできる教員が期待されている。
■ポイント
1 事実学習は理解を妨げる
ルソー(生徒は経験によってのみ教わるべき)も、デューイ(Learning by Doing, することで学ぶ)も、フレイレ(知識を暗記するのは銀行型の教育だ)も、知識が理解の敵であるとした点で間違っている。むしろ長期記憶は人間の認知の中心的体系として考えられている。
事実学習の目的は事実1つを学ぶことではなく、数百の事実を学び、総体として世界を理解するための助けとなるスキーマを形成することにある。歴史上の出来事1つとその年号を覚えても役に立たないけれども、百以上の歴史的事実から時系列スキーマを形成すればそれは歴史理解の基礎になる。同様に、4x4=161つを覚えても役に立たないけれども、九九全体を覚えていれば数学的理解の基礎になる。
2 教師主導の授業により生徒は受け身になる
1/3の大学生が自主的に学ぶことに苦労している。自立性を達成するための最善の方法は、自立して学ぶことではない。教師による教えは自立した学習者になるために必要である。人類が時間をかけて収集された情報を「もう一度発見する」のは意味がない。ニュートンが言ったように、私たちは巨人の肩の上に乗ることによって学ぶのだ。
直接教授法(Direct Instruction)とドリルは効果的である。退屈さは、生徒のレベルに合わせた難しさに設定することによって、満足感に変わる。
3 21世紀は全てを根本的に変えてしまう
21世紀に必要となるスキルは、市民性、学習、情報管理、対人関係、状況管理と言われている。問題解決、創造的思考、クリティカル・シンキング、対人能力はもちろんすべて重要なスキルだ。しかし、これらの中で21世紀に特有なものは1つもない。新たな発見は以前の発見の上に積み重ねられるものであり、元々の発見についての知識がなければ理解できない。
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