見出し画像

034 [アドラー心理学] アドラー心理学を21世紀にどう位置づけるか:その良さと独自性

前回は、アドラー心理学の理論的な枠組みについて書きました。今回はその後半として、アドラー心理学のキー概念と独自の治療技法について説明します。そしてアドラー心理学が現代の私たちにどのような意味を持ち、どのように役立つかについて書きたいと思います。

アドラー心理学の3つのキー概念

理論の有用性は、簡潔性と予測性の2つの軸で評価することができます。科学の理論であっても、個人的なプライベート理論であっても、それが単純であれば、適用範囲が広くなりますし、さらに良く当たるものであれば便利です。

このような理論の中で重要な役割を果たしているものを「キー概念」と呼びます。キー概念は現実世界を解釈し、未来を予測するために、そこで働いているものを仮定したものです。

アドラー心理学では次の3つが重要なキー概念です。

  1. 劣等感とその補償

  2. ライフスタイル

  3. 共同体感覚

「人が成長し、人生を生きていく」という現象については、それこそたくさんの見方があるでしょう。もしアドラー心理学の3つのキー概念を使って「人が生きていくこと」を表現するとすれば、次のようなものになるでしょう。

(1) 人は生まれてから常に「自分はこうなりたい」という自己理想を持つ。それは理想状態であるから、いつでも現状の自分である自己概念はそれよりも低い位置にある。この自己理想から自己概念への落差によって「劣等感」を感じることになり、それをなんとか埋めようとして「補償」という努力をする。

(2) 次第に成長するにつれて、補償という努力は自分が「この方向で生きていけばなんとかなるのではないか」と感じた部分に集中的に投資されるようになってくる。「この方向で生きていこう。そうすればここに居場所がある」という判断は人それぞれなのでそれが個性となってくる。これを「ライフスタイル」と呼ぶ。ライフスタイルは、自分が所属する共同体が家族メンバーから見ず知らずのクラスメートに拡張された時期、つまり小学校時代にはほぼ確定する。しかし、それはあまりにも自然な決断なので本人には意識されない。

(3) 人は成長するにつれて他者と協力することを学んでいく。一人では弱いけれども、協力し、助け合うことで多くのことを成し遂げることができる。共同体の中でお互いに信頼し、共同体のために貢献することで、幸せと生きがいを感じることができる。そのためには、「自分は特別」ではなく「自分の行動は他者にとってどうか、共同体にとってどうか」ということを考える必要がある。これを「共同体感覚」と呼ぶ。共同体感覚は人が生涯にわたって自ら訓練し育てていく能力である。

早期回想とエピソード分析という技法

治療技法とは、心理療法やカウンセリングで使われる特定の方法です。さまざまなカウンセリングの流派によって好んで使われる特定の技法があります。たとえばフロイトであれば「自由連想法」を使って、クライエントの頭に思い浮かぶことをなんでも言ってもらいます。フランクルであれば「逆説療法」を使って、緊張が怖いのであれば、できるだけ緊張してくださいという指示を出したりします。

認知行動療法はいろいろな技法が合流していますので、「系統的脱感作法」を使ったり、「認知再構成法」を使ったり、「エクスポージャー法」を使ったりします。これ以外にもたくさんの治療技法があります。

さて、アドラー派カウンセリング特有の技法は何ですかと問われれば、早期回想とエピソード分析ということになるでしょう。

早期回想(early recollections)というのは人生の最も早い時期のエピソードの記憶です。エピソードというのは、状況があって、自分を含めた登場人物がいて、はじめと終わりがあるひとつながりの出来事です。できれば、シーンが鮮明に思い出せて、何らかの感情を伴っているものだといいです。

ここから先は

4,463字

¥ 150

ご愛読ありがとうございます。もしお気に召しましたらマガジン「ちはるのファーストコンタクト」をご購読ください(月500円)。また、メンバーシップではマガジン購読に加え、掲示板に短い記事を投稿していますのでお得です(月300円)。記事は一週間は全文無料公開しています。