(048) Zoomの授業での利用によって起こった変化:ほどよい交流距離
これほどまでにZoomを使う生活になるとは思いもしませんでした。1週間に7回はZoomで授業や講座、あるいは会議をしていますので、ならせば一日一回はZoomを使っている計算です。いや、これはすごいな。あらためてそう感じます。
Zoomによる会議は、対面に比べて2-3割くらい時間短縮になりました。会議室に出かけるための時間が不要だと考えれば、2倍くらいは効率化している体感です。これこそ私が待ち望んでいたことです。
担当する授業と講座にZoomを取り入れたことによる効果も大きいものがあります。とりわけ、もともと非同期オンデマンド授業だったものに、Zoomを追加することで生まれた変化に注目したいと思います。結論から言えば、もっと早くからこれを始めるべきだったということです。
・フルオンデマンド科目の履修生の2-3割が参加する
フルオンデマンド科目は、毎週ビデオ講義が配信され、指示された課題を提出するというサイクルで進んでいきます。講義の内容や課題についての質問は随時フォーラム(BBS)で解決していきます。ですので、これまでZoomによる同期的なコミュニケーションの機会はありませんでした。
コロナ禍の状況で、不安な点もあるだろうということで、今期は次の2つのオンデマンド科目でZoomによるミーティングを任意参加でやってみました。
・大学院の「インストラクショナルデザイン特論」(クオーター)
・eスクールの「スタディスキル」(春学期)
今回は、もともとの授業がフルオンデマンドであることから、ミーティングの参加は任意としました。その結果、だいたい全履修生の2-3割が参加することがわかりました。
・ミーティングでは授業内容や方法についての質疑を中心に
ミーティングでは、30-60分の時間で授業内容や課題の方法についての質疑を中心にやりとりをしています。特に、質疑応答では授業の内容を超えて、色々な質問が出てきます。また、その質問に回答していく文脈で、教員からの授業意図を説明する機会ともなります。
また、履修者同士の交流の場としてZoomのブレイクアウトルーム機能を使って、3-4人のグループで意見交換をしてもらうこともしています。そう考えると、これは一種のオンラインスクーリングなんだと考えることもできます。
たまたま同じ授業をとった学生同士の交流の場がZoomなんだと考えれば、フォーラム(BBS)での文章による交流が不調に終わったとしても、それをZoomでやれば問題はないような気がします。
・オンデマンド授業に活力を与えるもの
以前「(036) オンライン教育では物理的距離ではなく交流距離が重要」という記事で、交流距離という概念を紹介しました。
マイケル・G・ムーアは、遠隔教育の文脈で「交流距離 (Transactional Distance)」という概念を提唱しました。教育に影響するのは、物理的な距離ではなく、対話の頻度 ・量(Dialog) とコースの構造化の程度 (Structure) によって決まる交流距離だと主張しました。この交流距離という概念は、物理的距離に対して、教員と学習者との心理的・教育的な距離と位置づけられるものです。
ムーアの考えによると、コースの構造化が高くなると、対話の量は減り、学習者は自分の自律性にしたがって学習を進めていくようになるということでした。しかし、学習者の自律性だけを頼っているとドロップアウト率はなかなか下がりません。それがオンライン教育の問題でした。
ここで、同期型のオンラインスクーリングを適度に入れていくことが問題解決になりそうです。オンラインスクーリングでは、実質的な授業内容を扱うのではなく、授業や課題にどう取り組めばいいのか、どこをどう探せばいいのか、自分の考えであっているのか、他に考え方はないのか、といったような授業内容の周辺部分を扱います。授業内容の周辺部分でつまづいている人を支援するのがオンラインスクーリングということになるでしょう。
そうするとこれに参加すべきなのは、自律的に学習を進めている人よりもむしろなかなか授業についていけない人たちです。しかし、実際のところ、任意参加してくる人たちは進んでいる人たちが多い印象です。ここをどうするべきか少し迷います。課題がなかなか出てこない人たちに声をかけて参加を促すかどうかということです。
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