4-お勧めの本

【論文】「学習行動経済学」に基づく研究フレームワークの提案と具体的な研究課題

木曜日はお勧めの本を紹介しています。今回は本ではなく、論文を取り上げます(自分のですが)。

向後千春(2012)「学習行動経済学」に基づく研究フレームワークの提案と具体的な研究課題『日本教育工学会研究報告集』JSET12-3, Pp.103-106

昨日、2017年のノーベル経済学賞が贈られたリチャード・セイラー氏が活躍している「行動経済学」という考え方を紹介しました。セイラーに先立って、2002年にノーベル経済学賞を受けているカーネマンとその共同研究者トヴェルスキーもこの分野を開拓しました。

私も行動経済学の本を何冊か読んで、その視点に影響されました。そんな中で書いたのがこの論文です。論文とはいっても「構想」だけで書かれたものであり、ひらたくいえば「こんな研究をすると面白いんじゃないかな〜」という提案です。2012年に日本教育工学会の研究会で発表されました。「学ぶ」という行動を、行動経済学の視点で考えてみるとどうなるかという提案です。

この論文から抜き書きすると、次のような研究トピックが考えられます。

直観的判断(ヒューリスティックス)

・授業や学習活動がおもしろそうだという判断はどの時点でどれくらいでなされるのか。また、その判断は、学習プロセスが進むにしたがってどのように変わるのか、あるいは変わらないのか。

・学習の大変さ、つまりかかる時間・労力はどのように短時間で見積もられるか。その見積もりはどの程度正確か。その見積もりによって、その後にとられる学習方略はどのような影響を受けるか。

プロスペクト理論(変化への敏感性と満足)

・自分が以前に比較してどれくらいうまくできるようになったかという効力感の変化や熟達の度合いの変化は、動機づけの大きさをどの程度予測するか。

・効力感や熟達の度合いの変化が動機づけの大きさを予測するとすれば、教授デザインや教材設計の難易度やフィードバックの方法はどのように最適化されるか。

・ある程度熟達したときに起こるプラトー状態においては、自分に上達が感じられないために、ドロップアウトのリスクを生ずる。このリスクを低減し、次の熟達段階に持ち上げるためにはどのような教授デザインが可能か。

学習の効用と幸福

・学習の評価が満足をもたらすのか。学習のプロセスが満足をもたらすのか。あるいは、学習のプロセスにおける他者とのコミュニケーションを含む相互作用が満足をもたらすのか。

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