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(130) 成果を直接的に予測するエンゲージメントという概念

2021年4月8日(木)

2020年度の「教える技術オンライン研究会(OGOK)」(全10回)から、研究トピックや研究スキルを紹介するシリーズの第6回目です。今回は研究トピックとして「エンゲージメント」を取り上げます。最後には、そのレクチャービデオを紹介しています。

・動機づけ研究の流れからのエンゲージメント

心理学における動機づけの研究は長い歴史を持っています。それとともに、私たちも動機づけという概念をそれとなく使っています。まず私たちが思い浮かべるのは「やる気」や「意欲」のようなものが個人に備わっていると考えます。そして個人によってやる気や意欲が、高かったり、低かったりするというように、動機づけが個人の特性として決まっていると考えます。

一方で、同じ個人であっても、領域や文脈によって動機づけが大きく変わることがあります。たとえば、プログラミングが好きで、そのときはすごいやる気を出すのに、それ以外のことではまったくやる気を見せないといった現象は珍しくありません。

インストラクショナルデザインの領域でも、動機づけを高める教え方の工夫の研究は多く行われています。代表的な理論としては、「期待x価値」理論が挙げられます。これは、特定の対象を学ぶときのその人の動機づけは、「期待」=そこでどのくらい成功できるかという期待と、「価値」=その対象を学ぶことにどれくらいの価値があるかの2つの要因で決まるという主張です。

そこでエンゲージメントというアイデアの新奇性は何かというと、これまでの動機づけ研究における動機づけが、個人の特性でもなく、領域によるものでもなく、その人と環境の相互作用のダイナミックな捉え方であるといえます。ある個人と何にどう取り組むかという組み合わせの状況によってエンゲージメントが決まってきます。そしてエンゲージメントという変数は、学業成果やパフォーマンスをより直接的に予測する変数となります。これがエンゲージメントという概念が注目されてきた理由です。

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・エンゲージメントの3つの側面

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