4-お勧めの本19

【本】クレイトン・クリステンセン他『ジョブ理論』:人々が片づけたいジョブとその状況を見つけだしてそれにフォーカスする

木曜日はお勧めの本を紹介しています。

今回は、クレイトン・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン, 2017)を取り上げます。

■要約

イノベーションを生むには正しい質問をしなければならない。それは人々がどのようなジョブ(用事、仕事)を片づけたいと思うときに、どのようなプロダクト(製品、サービス)を雇用するのか(あるいは別のものを雇用しないのか)という質問だ。これから自動車を少し長く運転しなければならない状況で、なぜミルクシェイクを買うのか。バナナでなく(すぐに食べ終えてしまう)、ベーグルでなく(パサパサする)、スニッカーズでない(甘すぎる)理由が明らかになれば、ミルクシェイクがなぜ雇用されたのかがわかる。

■ポイント

ジョブは単に片づけなければならない仕事ではなく、ある特定の状況で人が遂げようとする進歩である。進歩という言葉には「ゴールに向かう動き」が込められている(ちょっとアドラー的)。ジョブには「状況」が含まれる。状況とはジョブが生じる特定の文脈である。たとえば、どこにいるか、いつか、誰と一緒か、何をしているときか、この前に何をしていたか、次に何をするつもりかなどである。

これまでは、次の4つの観点に注目してきた。プロダクトの属性、顧客の特性、トレンド、競争反応。しかし、これだけでは、顧客の行動を予測するのには十分ではない。

ジョブはニーズではない。「健康的でいたい」や「定年後に備えて貯蓄する必要がある」といったニーズは真実ではあるけれども、それはぼんやりしたものであり、顧客がどのプロダクト/サービスを選択するのかを予測することはできない。一方、ジョブは、ミルクシェイクの例のようにはるかに複雑な事情を考慮する。

サザンニューハンプシャー大学(SNHU)には通信課程としてオンライン学習プログラムがあった。これは傍流扱いされていたが、会計学の学位を得るために働きながら勉強している35歳に必要なものというジョブのレンズで見てみると、これこそがイノベーションを必要とするサービスであった。SNHUのチームは通信課程の学生ならではのジョブ、彼らの独自の状況、彼らのジョブの機能的、社会的、感情的側面に注意して、1つずつ障害物を消していった。たとえば、新入生ひとりずつに個人アドバイザーをつけたり、卒業式に参列できなかった人のためにバスで卒業証書を渡しにいったりすることだ。その結果、SNHUは75,000人の学生が学び、1,200人の職員がそれを支えている。

ジョブを満たす解決策を見つけられず何も雇用しない道を選ぶことを、「無消費」と呼ぶ。SNHUの例でいえば、大学の学位を取ることを諦めて、何もしていない人が無消費にあたる。無消費の人々を探し、発見し、取り込むことは、既存のシェアを奪うことよりも重要だ。

片づけるべき情報を理解し、それを満たすようにデザインされた商品は、顧客の中に入りこみ、顧客の人生に寄り添う。そんなプロダクトは顧客に「あなたのことをわかっていますよ」と語りかけるのだ。イケアの商品も店内レイアウトも真似することはできるだろう。しかし、イケアが顧客に提供する体験と、顧客の障害物を予測し乗り越える手助けをするやり方は、模倣するのが難しいだろう。

ドワイト・ハーケン医師は、高度な手術を受け耐え抜いた患者が、その回復期間中に死亡しているという事実に注目して、集中治療室の概念にたどり着いた。組織や指揮系統をいじることよりも、顧客の片づけるべきジョブを完璧に解決するプロダクト/サービスを提供できるようになることが重要である。

学校は子供たちがジョブを片づけるために雇用する可能性のあるもののひとつにすぎない。子供たちのジョブとは、日々の生活の中で、自信を持ちたい、友人が欲しい、というものだ。ほとんどの学校が、このジョブをうまく片づけられていない。それどころか、多くの子どもを落ちこぼれの気分にさせている。

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