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論文は思考のヨガ?:書けないと苦しむ皆さんに伝えたい4つのこと

 毎年、これぐらいの時期(夏休み前)になると、論文を書き始められず悶々とする学部4年生や大学院生が、困りきった顔をしながら相談に来ることがよくあります。というわけで、今日は論文をどのように書いたらいいかと悩む学生さんに向けて、私なりのアドバイスをしてみたいと思います。

 最初に是非とも言っておかなければならないのは、(1)とにかく机の前に座ってください、ということです。そして、PCやらノートやらを開いてください。そのためには次のようなことを意識しておくと良いと思います。

 「書くことがまとまってから書く」とか「考えがまとまってから書く」という意識を捨ててください。(2)書くことは書きながら考えるのが書けなくならないためのコツです。この時、書きたいことを書くという意識も捨ててください。特に人文系の学生に多くみられるかも知れませんが、論文となれば自分が主張したいこと、自分が日頃から考えていることなど、言ってしまえばあるテーマについての自分の思いを意識高く、難しい言葉を用いて発表することだと考えているなら、即刻その考えはゴミ箱に捨ててください。

 なぜ書かねばならないのに、書きたいように書いてはいけないのでしょうか。それは、(3)論文には型があるからです。その型に当てはめるようにして書かれるべきことを書いていくのが論文を書くということです。もちろん、そこでは、それぞれに書かれるのに相応しい内容が決まっています。皆さんも「問題の所在」とか「研究目的」とか「研究方法」とか聞いたことがあるはずです。あるいは「序論」「本論」「結論」という構成を見たこともあるでしょう。理想的には、その型にそって書いていけば、論文が仕上がります。Radioheadというバンドの曲にeverything in its right placeという曲がありますが、まあそんな感じです。

 そして、(4)書けるところから書いていくことを忘れないでください。例えば、ある統計データを手に入れているなら、それをまずは図や表にでもまとめてください。あるいは調査で会話を記録していたり、インタビューをしているなら、それを文字起こししてください。先行研究を読んだなら、その概要を書いてみてください。こうしたことも手がつけられないなら、参考文献リストを作ってみてください。フィールドワークでたくさん写真を撮ったなら、その写真で何を使うか整理してみてください。つまり、論文を書くということを文字通りに捉える必要はないのです。必ずしも文章を書いていかなくても良いのです。文献リスト、写真の整理、データの整理、それらもまた論文を書くという作業の一環だと思ってください。大事なのは、毎日少しでもいいから自分の論文に向き合っていること、です。

 論文を書く上で、深く考え抜くことはとても大切なことです。だから、ついつい、考えて、考えて、考えて、考え抜いてから、書こうとしてしまいます。しかし、論文を書くということは、ある意味ではその思考をプツンと一旦停止して、ある程度のところで妥協する、お休みすることです。そして、それを可能にしてくれるのが、論文の型、形式なのです。ここを押さえておく必要があります。こういう決まりごとから自由になっているかに見える小説や詩、つまりは言葉による創作の世界だって、実際はある型やある形式があるのです。優れた作品ほど、その根幹には型や形式の実践があるはずです。

 こう考えてみると、論文を書くということはヨガをすることに似ています。とりわけ、太陽礼拝など、決まった形を繰り返していくようなヨガにはその趣きがある。普段は外に向かって活動的に開かれた自身の身体を限定された動き(型)の中に閉じ込め、そうすることで開放され過ぎた身体を落ち着かせて、整えていくのがヨガです。ヨガをした身体は次の活動に備えたニュートラルな状態になります。

論文を書くというのもある意味では、たくさん考えて、調べて、研究して、広がりきった自己の思考をちょうどいいところに収めていく、そういう活動と考えてみることができるかも知れません。その意味では、ヨガと同様に毎日、あるいは決められたタイミングで、少しでも良いので書き続けること。そうした取り組み方が良いのかも知れません。

 とはいえ、そう上手いこと行くわけがないのが、論文を書くということではあります。私のように論文を書くことを職業にしているようなタイプの人間でも、常日頃からそれができればもっと楽になるのだろうなーと遠い目をすることもしばしばです。

 まあ、そんなことはさておき、書けなくても良いから机に座ってみる書きながら考える論文には型がある書けるところから書く、もしも論文をどうやって書き始めようかと悩んだら、まずはこの4つを思い出してみてください。私も行き詰まったら、この4つのことを思い出すようにしています。

 なお、ここで述べたようなことの一部はいろいろな論文作成のハウツー本にすでに書かれていることです。特に、とにかく机に座るということについてはまだ駆け出しの研究者だった時に読んだ次の本で目を開かされました。興味がある人は読んでみてください。

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