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紅い翼

獅子は、険しい谷から我が子を突き落とし、
子が這い上がってくると再び突き落とす。

それでも登ってきた、本当に強い子だけを育てるという。

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父の獅子に突き落とされ、子獅子は必死で這い上がる。
身体は小さく足の力はまだ弱く、必死に崖を登るも何度も滑り落ちてしまう。傷だらけの全身が疼き、痛む。

それでも、登らないといけない。登らなければ。
その一心で必死に這い上がっていた。

この子獅子、本当は羽を持っていた。
地を駆ける四肢の力は弱くても、天を翔る事ができる。
そのことは子獅子自身もまだ知らない。

ある日、突き落とされた谷の底。
絶望と悲しみと痛みで、腹の底から吼えたその瞬間。
羽が生えて広がり、ふわりと身体が宙に浮いた。
翼は手応えを感じ、身体を高く高く運んでいった。

今まで飛ばなかったことが嘘であるかのように軽々と高く登り、自在に風を操る。
前進しながら四肢を伸ばせるのが心地よい。
ふと下を見ると父親の獅子が見上げていた。

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胸が痛むけど、行くしかない。
子獅子は再度、翼を羽ばたかせた。

紅い翼で、
わたしにしか飛べない、空へ。(畢)

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能や歌舞伎の連獅子をテーマに作ったこぎん刺しのテディベア「総刺しこぎんクマ」から思いついた物語です。
このテディベア自体はiichiで受注製作という形で販売しています。
*こぎん刺しのテディベア 総刺しこぎんクマ 連獅子(赤)
https://www.iichi.com/listing/item/1779235

*こぎん刺しのテディベア 総刺しこぎんクマ 連獅子(白)
https://www.iichi.com/listing/item/1779234

文章の初出はブログ(2019.1.19)。一部改訂してnoteに載せました。
http://kurosuke3796.hatenablog.com/entry/2019/01/19/073212

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