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これぞ古書店での出会い。

神田古本まつりにて。
リラックマトートバッグが売り切れと知って意気消沈しつつ向かった古書店ブースで、出会ってしまった。
杉浦貴美子『壁の本』(洋泉社 2009年)

古書でしか在庫がないようである。

買ったのは古本天国ノぺリ書店という店だった。しかも最後のページには、前の持ち主が買ったであろうレシートが挟まっていた。
ジュンク堂書店池袋本店で2010年2月8日(月)15:28に、他の本2冊と一緒に購入したそうだ。合計4140円とある。

さてこの本は街中にある壁をアップで撮影した写真集である。何の変哲もない普通の(場合によっては古びて薄汚れた)壁たちが何枚も登場する。
しかし、壁にクローズアップするととても個性豊かだ。ひび割れなどが何かの模様に見えてくる。美術館やギャラリーで抽象絵画を見ているような錯覚さえ覚える。実際、「ある日街のなかに名画を見つけた」として、パウル・クレー壁やジャクソン・ポロック壁と名付けた壁が登場する。

「ありふれた建物に注目するようになると、今まで見えていたはずなのに見えていなかったものがはっきりとした輪郭を持つようになり、住み慣れた町が一変した」(はじめに 2ページ)
「地面に対して垂直な壁は、重力や気候、生物などの影響を受けながら時間をかけて生き物のように熟成され、ひっそりと消えていく。町が新陳代謝を繰り返していることを証明するかのように、私のとった壁の幾枚かはもう存在しない」(同 2ページ)

これこそ、私が写真を撮るときに考えている「何気ない風景に意味を見出す」ということに似ている気がする。実際塀や地面を撮ることもある。 

風景写真を撮るようになって、出かけることが苦痛ではなくなった。少しだけ足を延ばしたり、一本違う路地へ寄り道したり。
そして今の何気ない風景を記録に残すことは、自分の生きた証を残すことにつながるような気がする。

そういう、自分が何となく感じていた感覚にマッチしたから、この本との出会いに何かを感じたのだと思う。




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